『若草を濡らす少女たち』
第十話 西川まり子/野村良枝の巻
        第二章 良枝の罠      

第二章 良枝の罠

 桜ケ丘中学は一学期の最終日を迎えていた。校庭での終業式の後、教室に戻った生徒たちにいよいよ通信簿が配られる。
 先生から名前を呼ばれると一人ずつ教壇に行き、簡単なコメントを受けた後一学期の評定が下される。成績が上がったのか先生に褒められてニコニコしながら戻ってくる者もいれば、頭を冗談ぽく小突かれ苦笑いする者もいる。また席に戻ってからも友達同士で見せ合ったり、教室の隅でこっそり見て一人悦に入っていたり、反対に親に叱られると頭を抱えたりと、この時期ならではの光景である。
 全員に通信簿か行き渡った後、夏休みを迎えるにあたっての注意事項が説明される。配られたプリントに目を落とし真剣に話を聞いているように見えるが、全員の心は早くも夏休みへ飛んでいる。
 「じゃあみんな、9月に又会おう!」
 説明が終わり先生が手を振って出ていくと、夏休みを迎える解放感からか教室が一気に騒々しくなる。帰り仕度を終えた生徒たちが別れの挨拶を交わしながら、次々と教室を飛び出していく。
 西川まり子は立ち上がると大きく伸びをした。
 クッキリとしたアーチ型の眉、キラキラと濡れ輝く大きめの瞳、栗色がかったショートボブのサラサラとしたストレートヘア、どこをとっても瑞々しい魅力に満ちている。笑うと健康的な白い歯がこぼれ出て、その愛らしさを一層際立たせる。
 中肉中背の普通のプロポーションだか、小さいころからスイミングスクールに通っているせいか、非常に均整がとれている印象を受ける。
 日に灼けたような小麦色の肌は元々のものだが、地黒と言われてこの年頃の少女たちがコンプレックスを抱くようなものではなかった。小麦色をした、張りのある瑞々しい肌は、むしろ健康的な印象を見る者に与える。
 成績も二年生ではトップクラスだし、学級委員も務めるなど才色兼備のまり子だが、今のところ特定のボーイフレンドはいなかった。決して男の子に興味がないというわけではないし、正直交際を申し込まれた事もある。でもまり子は、まだそういう事は自分には早いと思っていた。
 とはいえまり子も年頃の女の子、性に対する興味はそれなりに持っていたし、オナニーも小学校六年生の時に経験済だ。しかし何と言ってもまだ十四歳、勿論まだバージンだしキスの経験すらもない、汚れを知らぬ少女なのだ。

 「あっ、良枝ちゃん」
 廊下で待っていた野村良枝にまり子は走り寄った。
 「待っててくれたんだ。どうだった、成績?」
 「うん、まあまあ.....。まり子ちゃんは?」
 二人はどちらからともなく通信簿を交換し、お互いに見せ合った。良枝とまり子は一年生の時にクラスが一緒になってからのつき合いだが、当時から不思議とウマが合い、進級してクラスが別れてからも交流は続いている。
 まり子の通信簿は理科だけは3だが、後は全て4、英語は5である。両親が英語関係の仕事をしている事もあってまり子は一年生の時から英語が得意で、成績はずっと5をキープしていた。
 一方良枝は殆どの科目で成績を落としていた。2こそなかったが理科が5である以外はオール3である。
 「良枝ちゃん落ちちゃったね。でも凄いじゃない、理科が5なんて。あたし理科苦手だからなぁ。今度教えてね」
 「う、うん.....」
 良枝は頷いたものの、心中は複雑だった。毎日のように原田に抱かれ、官能地獄の中にドップリと浸かっているため、本当は勉強どころではないのだ。ただ理科だけはセックスの代償のつもりか、試験前に原田が問題と答えを教えてくれていた。それでいい点数が取れただけなのだ。
 「まり子ちゃん、今日これから何か用事ある?」
 「ううん、別にないけど」
 「家に遊びに来ない?サザンの新しいCD買ったんだ」
 「えっ、ホント?聞きたい聞きたい」
 まり子もサザンのCDは全て持っており、海に行く時などは必ずテープを持って行くほど大ファンだった。ただ二、三日前に出た新しいやつはおこづかいが間に合わなくてまだ買っていなかったのだ。
 二人は通信簿を鞄にしまうと、仲の良い姉妹のように手を繋いで学校を後にした。

 「どうぞ、入って」
 「お邪魔しまーす」
 良枝たちが帰った時、家には誰もいなかった。良枝の両親は共働きなので母親も夕方までは戻って来ない。弟は一度帰ったようだが、いつもすぐにどこかへ遊びに出かけてしまいなかなか戻ってこない。
 良枝はまり子を二階の自分の部屋へ案内し、ステレオのスイッチを入れた。すぐに楽しげな夏らしいサウンドがが部屋を満たしていく。
 良枝は下へ降りたが、しばらくするとジュースを持って戻って来た。
 しばらく二人は学校生活の事、冬休みの予定など取りとめもなく話し合った。この位の年頃の女の子は一度話し出すと、それこそ際限なく話が続くものなのだ。
 CDの最後の曲が終わって部屋が静かになった時、まり子はずっと気になっていた事を思い出した。
 「ねぇ、良枝ちゃん。変なこと訊いてもいい?」
 まり子はジュースを飲みながら、良枝に尋ねた。
 「え、な、何?」
 良枝は内心ビクッとしていた。
 まさか先生とのことがばれてしまったんじゃ.....。
 「良枝ちゃん、5月ぐらいから何だかおかしくない?」
 「え、べ、別に....」
 「時々ふさぎこんでたり、ポーッとしてたりして変だと思ってたの。何か悩みがあるんじゃないの?あたしでよければ相談に乗るわよ」
 「.....」
 良枝はチラッとまり子のグラスを見た。もう全部飲み干してしまっている。こんなに優しい友達をこれから地獄へ突き落とさなくてはならないなんて.....。
 「今に.....分かるわ」
 「えっ、どういう意味?」
 その時まり子は猛烈な眠気に襲われた。頭がクラクラして、目を開けていられない。
 「良枝ちゃん...。あなた、いったい.....」
 まり子は不審げな表情を投げかけたが、襲い来る睡魔に抗し切れず横になるとすぐに死んだように眠り込んでしまった。
 良枝は原田から、まり子に飲ませるようにと言われて渡された薬をジュースの中に混ぜたのだ。原田はどんな薬かは言わなかったが、こうなる事は容易に想像出来た。
 「まり子ちゃん、ごめん.....ごめんね」
 良枝は涙を浮かべながら、下へ降り電話をかけた。
 「もしもし」
 低い男の声が響いた。すぐ近くに車で待機している原田である。
 「野村です。今まり子ちゃん眠りました」
 電話は返答なしにガチャッと切られた。
 二、三分すると玄関のチャイムが慌ただしく鳴らされた。良枝がドアを上げるとサングラスをかけた原田が玄関にずけずけと入って来た。
 良枝は原田を自分の部屋へ連れていく。ぐっすりと眠っているまり子を原田はサッと抱き上げ、とんぼ返りで階段を下りていく。
 まり子ちゃん、堪忍して.....。
 自責の念に苛まれながら、良枝は沈痛な面持ちで原田の後をついていった。

 


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