『若草を濡らす少女たち』
第四話 坂本雅子の巻
      第一章 学院のマドンナ      

第一章 学院のマドンナ

 午後二時半過ぎ、静かな構内にチャイムの音が鳴り響く。ここ国際会話学院の昼間部の五時限目、つまり最終授業の終了を告げる合図だ。
 講師が教室から出ていくと、七百人近い生徒たちが一気にそれぞれの教室から吐き出され階段やロビーはちょっとしたラッシュ並みの状況になる。
その中に坂本雅子がいた。何人かの友達と別れの挨拶を交わしながら、軽やかな足取りで階段を降りていく。
 地下のベースメントと呼ばれる自習室に着くと、クラスメートの一人である山本隆が落ち着かない様子で立っていた。
 隆は前期のテストでテストの点数が足らなかったために、同じレベルをもう一期やり直しているリピーターと呼ばれている生徒だった。国際会話学院は初級第一,第二,中級そして上級の四つのレベルから成っており、それぞれのレベルの中で期末テストの成績順にまた数クラスに分けられている。一期半年で通常なら二年で卒業となるわけだが、優秀な者はいきなり中級レベルから入学し、一年で卒業することも可能だ。その反面、期末テストで行われるいくつかの試験のうち、一つでも基準を満たしていなければ、たとえ不足していた点数が一点であったとしても、上のレベルに進むことが出来ないという厳しい一面もある。
 実際隆は入学してから既に四期目に入っていたが、未だに初級第二レベルにとどまっている。進級に厳しいレベルが設定されているこの学院では、隆のようなリピーターは珍しくないのだそうだ。
 すでに一年半在学しているだけあって学院内の事には詳しく、雅子も授業や先生の事など、よくアドバイスをされていた。性格が明るく、授業中も先生相手にギャグを飛ばしたりする目立つ存在でクラスの女子生徒の中でも人気があった。
 雅子は隆が何の用件で呼んだのか、おおよそ察しがついていた。本当は来たくなかったのだか、クラスメートなので無下に断るわけにも行かない。
 隆が足音に気づき顔を上げた。それまでの不安げな表情が表情がパッと明るくなる。
 「悪いね、わざわざ来てもらって」
 隆は頭をかきながら雅子に歩み寄った。
 「何ですか、お話って」
 雅子は早く用をすませて帰りたかった。
 「え?えーと.....」
 いきなりペースを乱されて、隆はうろたえているようだ。いろいろ話をしてから本題に入るつもりだったらしいが、この流れではいきなり核心に入らざるを得ない。
 「実は、その...俺、ずっと坂本さんのことが好きだったんだ」
 まさに雅子の予期したとおりの言葉だった。雅子はあらかじめ用意していた言葉をそのまま隆に返した。
 「ごめんなさい...私、今のところ誰ともおつき合いする気ないの」
 「俺みたいな男、タイプじゃない?」
 ここまであっさり断られるとは思っていなかったらしく、隆はかなり動揺している様子である。
 「そういうわけじゃないんだけれど.....とにかく今は特定の人とおつき合いするつもりはないの。ごめんなさい」
 「あっ、坂本さん、ちょっと待ってよ」
 なおも追いすがる隆から、雅子は逃げるように走り去った。

 坂本雅子、二十三歳。今年の秋から、英会話の専門学校である国際会話学院に昨年秋入学した女の子である。
 中学生の時から英語が得意だった雅子は、将来同時通訳の仕事をするのが夢だった。大学に進学した時も当然のごとく英文科に進んだ。しかし、文法中心で会話には役に立たないといわれる大学の授業に、雅子も納得がいかないものを感じていた。
 大学卒業も間近に迫ったある日、電車の中吊りで国際会話学院の生徒募集の広告に雅子は何か惹かれるものを感じた。それから半年間雅子は自宅で猛勉強し、国際会話学院九月度の入試に臨んだ。
 読み書き中心の授業しか知らない雅子にとって、ヒヤリングもある入学試験はかなり手強かった。しかし努力の甲斐あって試験は見事合格、雅子は初級レベルながら一番上のクラスに編入された。
 会話が中心とうたわれるだけあって、初級クラスながら中身の濃いカリキュラムが組まれており、雅子は苦労しながらも充実した毎日を過ごしていた。三月に行われた初の期末試験でも無事基準をクリアし、今期は初級第二の真ん中のクラスへ編入された。
友達も徐々に増え、楽しい学校生活を過ごす雅子にとって、一つだけ困っていることがあった。それは何人かの男子生徒からデートに誘われるようになったことだ。交際を申し込まれたのも隆が初めてではない。
 英会話の専門学校というのはどこも基本的には共学だが、実際の比率は圧倒的に女子生徒の方が多く、国際会話学院でも全生徒の九十パーセントは女子で、男子は三十人前後のクラスにせいぜい四、五名だ。
 そんな学校内では彼氏のいない女子生徒たちが、数少ない男子をかけて激しく火花を散らしているという話もよく耳にする。
 そんなたくさんの女子生徒の中でも、雅子のルックスは抜きんでていた。
 わずかに幼さを残しているキュートで整った顔立ちを、薄目の化粧が一段と引き立てている。肩まで伸びたサラサラのストレートヘアは、誰もが思わず触れてみたくなるような美しさだ。
白いブラウスに包まれた胸の膨らみは、特別大きくはなさそうだが形が良さそうな印象を受ける。ウェストはなだらかな曲線を描いてくびれ、丸みを帯びたヒップラインへと続いている。
紺色のフレアスカートから伸びている脚はスラッとしているが、ガリガリに細いのではなく適度に肉がついていて、反対に足首はキュッと閉まっている。黒いパンティストッキングに透けて見える肌の白さが艶めかしい。
 背は特別高くないが、バランスの取れたプロポーションを、いつもセンスのいい服装に包んでいる。そんな雅子に男子生徒たちが魅了されるのも無理もないことだった。
 しかし雅子はそんな彼らの誘いを一切受けつけなかった。今まで誰にも話した事はなかったのだが、雅子は男性恐怖症だった。
 雅子の幼い時に経験したある出来事が、心に深い傷を残していたからだ。

 


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