『麗と隷』
       第七話       

第七話

 法子の登場と共に、会場からは一際派手な歓声が起きた。法子は安岡に首輪の鎖を引かれ、じゃらじゃらと足枷の鎖を響かせながら小刻みに歩く。無数の好色の視線が、法子の拘束された裸身に突き刺さった。
「法子、がんばりな。」
 あるテーブルの横をすり抜けようとしたとき法子に声援が送られ、振り返ると美玖がにやにやしていた。法子は引きつったような笑顔を向けると、二人に続きステージへと引き立てられる。堪らなく惨めだった。何十人もの観衆の中を、全てを晒し、哀しい鎖の音を鳴かせながら、よちよちと歩いていることが…。
 二人は既にステージの上で正座をしていた。法子も不自由な手足を使い、ステージによじ上り正座した。まともに顔を上げられない。拘束された手足も小刻みに震えていた。
「本日は、御来店頂き、誠に有り難う御座います。…どうぞ、今宵も、わたしども、卑しい奴隷ホステスを、嬲り物にして頂き、心ゆくまで、お楽しみ下さい。…宜しく、お願いいたします。」
 麻奈美が客達に手を付き深々と頭を垂れた。恵と法子もそれに倣うと、客から再び歓声が上がった。煌びやかな衣装を着てステージに立ったときに浴びた歓声が、ふと法子の胸に去来する。あの時浴びた歓声は、華やかで目映かった。しかし今のそれは、猥雑で下品なものだ。法子は額を床に付けたまま、屈辱の想いに眼に涙を滲ませ小さな溜息を漏らした。
「法子。奴隷としてステージに立てた、今の感想は…。」
 アナウンス役の男が、平伏している法子にマイクを差し出した。歓声が止む。法子は悲哀の籠もった表情を上げると、
「とても…、光栄で…嬉しく、思います。」
 感傷に浸る心情を必死で隠し、絞り出すような声と共に曖昧な笑みをつくる法子は、会場の客の憐情心を煽り、それが嗜虐心を掻き立てた。
 三人は挨拶を終えると、それぞれ別のテーブルへと鎖を引かれた。法子が引き立てられたテーブルには、白髪の紳士面した男とホステスがソファーに座っている。会員達への挨拶廻りの時に一度見知っている男だ。たしか名前は佐原、大会社の取締役である。佐原はホステスの肩に手を掛け、高級そうなグラスを傾けたまま法子に脂ぎった視線を向ける。
 安岡はテーブルに法子の首輪から伸びた鎖を固定すると、そのまま席から離れた。法子は羞恥に震える裸身を縮ませながらその場に跪くと、額を床に付ける。
「…ご来店頂き、誠に、有り難う御座います。…まだ、奴隷としては、未熟者で御座いますが、精一杯ご奉仕させて、頂きます。…もし、…心触りが、ありましたら、どうぞ、厳しい…罰を、お与え頂き、…奴隷としての成長を、助けて下さい。…宜しく、御願いします。」
 か細い声ながらも、法子はしっかりとした口調で言った。法子の心臓は法子に敵対するかのように、淫猥な血液を除々に体内に送っていく。
「失礼…します。」
 法子は小刻みに震える身体を起こすと、鎖の摺れる音を響かせ歯に噛みながらも佐原の膝に乗った。そして、拘束された両腕を佐原の太い首に廻す。目の前で舌なめずりする嗜虐者の顔をまともに見る事が出来ず、法子は俯いたが、
「あの…、…キス、させて、頂けますか?」
 羞恥に頬を染めながら童女のように小首を傾げ恥じ入り訪ねる法子に、佐原の嗜虐心は大いに刺激を受る。自らの仕草が、相手をより凶暴なサディストにさせていることなど気づかない法子は、佐原の荒れた唇に歯の根の合わない唇を付け、可憐な舌を佐原の口中に忍び込ませねっとりと絡ませた。美鈴に開店前、レクチャーされた接客方法を忠実に守る。
 絡ませている法子の舌が小刻みに震えていることに、佐原は目だけで笑うと法子の乳房に、がさがさした手を背後から伸ばした。法子の乳房は佐原の刺激を受け、瞬く間に固くなり、乳首はこれ以上ないほどの勃起を見せた。
(…ぅん。)
 法子の塞がれている唇から僅かに吐息が漏れる。佐原は不敵な笑みを浮かべたまま、空いた手を法子の秘部に忍ばせていく。そこは、佐原も驚くほど熱く淫らな秘液で溢れていた。
(…ぁん…。)
 法子の小さな鼻から漏れる吐息が熱を帯びてくる。佐原の秘部に忍んだ手が次第に激しく法子を刺激した。乳房に伸ばした手も巧みに法子のつぼを押さえる。法子の表情からは、先程までの怯えたものが姿を消し、愛撫にどっぷりと浸かる淫靡なものへと変わっていった。不意に佐原の手が止み、絡ませていた唇からも離れる。法子は佐原の涎で光った唇を微かに開いたまま、佐原に淫靡な光を宿した視線を向けた。
「お前、勘違いするなよ。お前は、奴隷ホステスなんだからな。自分一人、気持ちよくなってどうすんだ。」
 法子はその言葉に物欲しげな瞳を伏せると、震える声で、
「ご…御免なさい。」
 佐原は唇を歪ませると、
「ところで、お前、餌は食ったのか?」
「い…、いいえ。まだ…です。」
 考えてみれば昼食時に美奈達陵辱を受け、結局お昼は摂っていない。お腹は空くものの食欲は全く無かった。しかし佐原は再びにやりと笑うと、テーブルに置かれた高級そうな肉片を自らの口に放り込み、下品な音を立てて噛み砕く。
「食わしてやるから、口を開けろ。」
 法子は余りのことに思わず身を反らした。佐原は、そんな法子の敏感になっている乳首を摘み、爪を立て思い切り抓った。
「あっ…、いっ…。」
 法子の口から、小さな悲鳴が漏れる。その痛みは呼吸をも止め、佐原の頸の後ろに廻した拳を固く握らせた。
「折角、食わしてやろうと言ってんのに、何だ、今の態度は…。」
 佐原は摘んだ乳首を更に歪ませた。
「ぁいっ…、ごっ、御免なさい。…御免なさいっ。」
 苦痛に眉間に深い皺を刻みながら、法子は必死で謝った。佐原は法子に激痛を与えていた手を離すと、法子は大きく息を吐き、哀愁に満ちた表情を佐原に向ける。
「…餌を、…与えて、下さい。」
 まだ痺れている痛みに途切れ途切れに言うと、法子は震える口を微かに開いた。佐原は唇を歪ませると法子に口を付け、自身の唾をたっぷりと含んだ肉片を押し込んだ。法子はその不気味な感触に、想わす苦渋の表情を浮かべる。すると、またも法子の乳首に激痛が走った。法子の呼吸が再び止まる。
「何だ、そのまずそうな顔は…。」
「ご…、ごめんな…あい。」
 法子は、乳首に走る激痛と口中一杯に含まされた気味悪さに耐えながら、必死で平静そうな表情を造る。そして痛みを与えられながらも、まるで毒でも飲み込むように咀嚼させられた肉片を喉に流し込む。法子は嘔吐感を催しながらも必死で耐えた。
「智美、美味しそうな顔に見えるか?」
 佐原は傍らに控えていたホステスに意地の悪い声で聞いた。
「ぜっぇんぜん。すっごくまずいもん食ったって顔してる。」
 法子は眉間に皺を刻み小さく頭を振る。
「…ぁいっ…。ごっ…御免なさい。」
 佐原は法子の乳首に立てた爪に更に力をこめる。
「智美、お前もこの礼儀知らずの奴隷を抓ってやれ。」
 智美は脳天気な返事を返すと、法子の太股に鋭い爪を立て、思い切り捻った。
「…くっ…、ごっ…御免なっ…さい。」
 激痛に身を捩りながら、法子は何度も謝るが二人は益々強く爪をあて思い切り抓る。佐原は苦痛に苦しむ法子をにやにやしながら見つめると、肉片を口に入れ何度も法子に咀嚼する。佐原達は表情が悪いとか、有難味に欠けているなどと難癖を付けては、法子の華奢な裸身に爪を当て滑らかな柔肌に血を滲ませた。
「佐原様、そろそろよろしいでしょうか…。」
 激痛に息も絶え絶えになっていた法子だが、この時ばかりは安岡が救いの神に見えた。
「おいっ、こいつ、礼儀知らずの奴隷だな。」
 佐原が安岡に含みを持った笑みで言い放つ。
「申し訳御座いません。この罰は、必ず受けさせますから…。」
 安岡は深々と丁重に頭を垂れた。法子はのろのろと佐原の膝から降りると、その場で額を床に付けた。
「…未熟な奴隷の、…お相手して、頂き、…有り難う、御座いました。」
 安岡はテーブルに括り付けた鎖を外すと、法子を乱暴に立たせる。
「なんで俺がお前みたいな奴隷のために、謝まんなきゃなんねぇんだ。全く、きちんと接客しろっ。」
 法子は小声で安岡に叱咤され、震えながら何度も謝った。法子の裸身のあちこちが、抓られた痛みの余韻に痺れていた。
 別のテーブルに移された法子は、そこでも平伏し嗜虐者の膝に乗り哀愁の籠もった瞳で虐待を請うと、熱い口づけを交わす。やはりその男も挨拶廻りの時、一度白濁を飲み干した男だ。先ほどのテーブルで火照った裸身を更に熱くされ、法子の裸身はその温度を益々上げ、表情は妖しい色艶に湿っていた。
「前のテーブルで、餌、貰ったのか?」
 その男は法子の秘部を弄びながら、うっとりとした表情の法子に訪ねる。
「は…い。…頂き、…ました。」
 次第に理性を失いつつある法子は、薄く眼を開けるとその男を見つめる。
「それじゃぁ、此処では…、一服させてやろう。」
 法子の温度が幾分下がる。
(一服?)
 怪訝な表情を浮かべる法子をよそに、男はホステスに奇妙なマスクを取り出させる。
「ほら、口を開けろ。」
 男に言われ、法子は恐る恐るマスクの裏側に着けられた箝口具を頬張る。そして、法子の小さな鼻の穴には大きすぎる程の鼻栓を無理矢理ねじ込まれた。その鼻栓には丁度煙草が入るほどの穴が開いており、嵌口具で口呼吸の出来なくなった法子は、そこからしか息を吸い込めない。法子の可憐な美貌は醜く歪み、眉間には苦悶の皺を刻む。
 男は煙草を二本取り出すとホステスに火を着けさせ、法子を振り返り唇を歪ませた。法子の背筋に冷たい物が走る。
「煙草、吸いてぇか?」
 法子は哀愁の籠もった瞳を伏せる。どうせ、吸わせるために自分の顔を歪ませたのではないか…、法子は諦めこくりと頷く。
「ふっ、高校生になったばかりなのに、煙草を吸いてぇのか…。とんだ不良奴隷だな。」
 男は自分で吸わせるくせに、わざわざ法子に請わせると、煙草を法子の鼻栓にねじ込んだ。
「ぅうん…、ぉほっ…、ぉほっ。」
 初めて吸わされた強烈なニコチンに、法子は曇った悲鳴を上げながら激しくむせるが、煙草を通してしか呼吸が出来ないため苦しみながらも煙を吸い込む。先ほど咀嚼させられた胃の物が逆流しそうでむかむかし、煙が眼に入り涙が止まらない。法子は必死で頭を振り、苦悶の表情で男に縋るような視線を向けるが、男はにやにやしながら煙草に苦しむ法子を見ている。
「餌の後の一服は、格別だろ。」
「ぁ…ぃ、うぅ…ん、う゛ほっ…、うっ…ぼっ…。」
 法子は何度も頷くが、男は自分でも煙草に火を着け、法子の苦悶に歪む顔に煙りを吹き付ける。
(くっ…、苦しい…、)
 涙をぽろぽろ流しながら苦しむ法子を見て、男と同席しているホステスが嗤っている。自分は屈辱と苦悶に苛まれているのに…、法子の眼から流れる涙は、煙に染みるそれとは異質のものも流れ出した。
 これで幾つ目のテーブルを廻されたのであろうか、法子はテーブルごとに屈辱と陰惨に満ちた責めを受け、身体は疲弊度を増していく。それらのテーブルでは、被虐の炎が燃え上がるのではあるが、後少しというところで冷水を浴びせられるような責めを受け、その炎は瞬く間に姿を消してしまう。永遠とも思える時間は、進むことがひどく遅い。震える裸身を男の膝に乗せながら良いように弄ばれる法子は、奴隷ホステスという身分を改めて思い知る。
「美鈴、おいっ、ちょっとこっちに来い。」
 法子を膝に乗せた男が突然美鈴を呼び止めた。法子は自分が粗相でもしたかと怯える。
「ションベン、してぇんだが…、法子でいいのか?」
 わたしでいい?法子は男の言っていることが理解出来ず、眼を丸くする。美鈴は法子を見つめた。
「法子。お前、人様の聖水、オシッコ飲ませて頂いたこと、ある?」
 そんなこと、ある訳無い…、法子の瞳は大きく見開き、歯の根が震え出す。そして美鈴に哀れな表情を向けると、小さく頭を振った。
「そっか…。佐伯様、本日は恵でよろしいですか…。」
「仕方、ねぇな…。法子、どけっ。」
 法子は弾かれたように佐伯の膝から降りた。法子は佐伯の隣で、悪戯のみつかった幼女のように、身体を小さく縮ませ俯く。
「恵っ、ちょっと来なさい。」
 待つほどの事もなく恵が来ると、席に向かい平伏する。法子はその恵の姿に瞠目した。恵の裸身が照明の反射を受け、きらきらと黄金色に輝いている。よく見ると画鋲が恵の身体には無数に突き刺さっており、それがまるで黄金を散りばめたように光っていたのだ。おそらく逃亡した罪で、法子や麻奈美などよりも残酷な扱いを受けているのであろう。法子は、そんな恵が哀れでまともに見ることが出来ない。
「恵。佐伯様が、お前に聖水を御馳走して下さるそうよ。」
 恵は、その美しい裸身をピクリと反応させると、妖艶な表情を佐伯に向けた。
「佐伯様、トイレの代わりを、させて頂き、とても光栄です。…どうぞ、卑しい奴隷に聖水を恵んで下さい。」
 法子の裸身は益々小さくなる。自分の代わりに、タレントとしても、奴隷としても先輩の恵に迷惑を掛けたことに、その幼さを残す胸が痛む。
「法子っ、お前も来なさい。」
 法子は弾かれたように立ち上がる。美鈴はテーブルに括り付けられた法子の首輪から伸びた鎖を外すと、恵と佐伯の後に続く。法子は項垂れたままよちよち歩きで美鈴に引かれるが、トイレであろう個室に入るとその奇妙な便器に驚愕の瞳を向けた。それは透明なアクリル製の小便器であり、天井から吊られたそれは、排水管が揺るかなカーブを描き途中で切れている。その切れた配水管を被虐者が頬張れば、小便を朝顔に垂れ流す男に、それを奴隷が飲み干す姿を正視出来る構造だ。呆然と見つめる法子に、恵が平伏している姿が映る。
「私のような、卑しい奴隷が、トイレの変わりを務めさせて頂く、ご無礼を、お許し下さい。」
 恵は少し震える声で言うと、便器から伸びた透明の管を頬張る。
「いくぞ、たっぷり、味わえよ。」
 佐伯はズボンから一物を取り出すと、その便器に向かい勢い良く放物線を描き始めた。恵は佐伯を見つめたまま、後から後から流れてくる汚水を必死で喉に送り込んでいる。法子の膝は音を立てて震え、余りのことに恵の姿を正視出来ず、思わず眼を反らした。すると、美鈴が法子の尻を勢い良く叩く。法子は小さな悲鳴を上げると、恵を見つめた。
(わたしも…わたしも…、きっと…。)
 汚水を飲み干す恵の浅ましい姿に自分を重ね合わせ、法子の心臓は激しく高鳴る。
 やがて全てを出し切った佐伯がゆばりを切る。恵は管から口を離すと、備え付けのコップでうがいをし、それも飲み干すと肩で呼吸しながら佐伯の一物を含んだ。そして淫靡な音を立て、一物から全てのゆばりを吸い取るかのように含んでいる。
「恵、もういいぞ。ここで出しちゃぁ、もしお前らの相手をせがまれたら、つまらん。」
 佐伯はそう言って法子を見つめた。法子はその言葉の意味をはかりかね、戸惑うような表情を見せた。恵は佐伯に、微かな微笑みを向け、アンモニアの強い異臭を放つ便器をも舐め始めた。法子は伏し目がちに恵を見続けている。やがて恵は佐伯に向け、額を床に付けると、
「とても、美味しい聖水を、ご馳走して頂き、有り難う御座いました。」
 佐伯は、法子に冷たい一瞥を向ける。法子は反射的に身を固くする。
「法子。次からは、お前にトイレの代わりをさせてやるから、恵を見て、きちんと勉強しとけよ。」
 法子は歯に噛み俯くが、やがて焦点の合わない瞳を佐伯に向け、
「は…い。…宜しく、お願い…します。」
 拘束された裸身で深々と頭を垂れた。佐伯が個室から出ると、法子は思わず平伏している恵に近づき膝を折った。
「恵…さん。…あの、御免なさい。」
 何故自分が謝るのか法子自身説明は出来なかったが、兎に角恵に向かい謝罪の言葉を繰り返す。恵は必死で謝り続ける法子に憂いを含んだ視線を向けると、そのまま何も言わず出ていってしまった。法子も美鈴に鎖を引かれその場から立ち去るが、恵の朽ち果てたような態度が気になり、項垂れたまま席に戻った。 

「法子、見なさい。」
 また別のテーブルに移された法子は、嗜虐者から淫靡な愛撫を受けていたが、その客からステージを見るように促され、気怠そうにステージに視線を向けた。ステージではなにやら三人掛かりで恵を拘束している。
「あいつは、逃亡という大罪を犯したからな。あいつがこの店に来る度、いつもああして罰を受けてるんだ。」
 法子を膝に乗せた男が呟く。ステージを見つめていた法子の瞳は、次第に大きく見開いてくる。
 鼻輪に括られた鎖を天井から垂れた滑車に繋ぐと、恵が爪先立つまで引き上げられた。よく見ると、掌の人差し指と親指の間にもピアスが施されており、それも左右の滑車に繋ぐと両手を大きく広げられた形で拘束される。下腹部からも鎖は垂れていた。クリトリスにでもピアスが付けられているのか、それは床のフックに固定する。しかしピアスはそれだけではなかった。なんと両膝にも施されている。男達は恵の爪先立つ震える両脚を大きく開かせると、そこから伸びた鎖も床に固定する。恵はその美しい裸身を大の字の開かされ小さな呻き声を漏らすが、身動き一つ出来ない。しかし、不安定な態勢にその裸身は小刻みに震えだした。辛く苦しい態勢を悶える自由の奪われた恵を見て、法子の心臓は異様なほど高鳴る。アナウンス役の男が再びマイクを持つ。
「それではみなさま、本日も恒例の、逃亡という許すべからざる大罪を犯しました松元恵の公開懲罰を行います。…それとこの度、恵本人の強い希望により、何でもこなすスーパー変態AV女優としての芸能界復活が、正式に決まりました。」
 会場からは派手な声援が起きた。男は恵の髪を鷲掴みにし、大袈裟に揺さぶる。恵の身体には括られたピアス全ての箇所に激痛が走っているはずだ。短い悲鳴を上げる恵の口元に男がマイクを近づける。鼻輪を吊られているがその痛みに耐え、恵は上げた顎を必死で下げ観客にその苦痛に歪む表情を晒そうとしている。そのため鼻の穴は無惨に上を向き、歯茎も剥き出しになる。醜くく歪まされたその美貌は見る影も無い。
「みな…さま。…本日も、…奴隷に、ぁあっ…して頂いた、…ご恩を、ぁ…忘れ、…その天職を、…放棄、した…罪を、っ…償わせて、…下さい。それと…、私のような…、っつ…卑しい奴隷が、…AV女優…として、芸能界復帰…させて…、いっ…頂き、…有り難う…、っ、御座います。」
 苦悶に途切れ途切れな言葉で恵は贖罪を請い、AV女優として復帰することに苦悩しながらも感謝の言葉を言わされる。法子の身体は男の膝の上で震え出し、まるでこれから自分が罰を受けるような怯えた表情で男にしがみつく。
「なんだ、お前が怖がってどうする。」
 男は軽く微笑むと、法子の裸身を愛おしそうに撫でた。法子はそんな男の胸に、怯えた顔を凭れた。
「法子。きちんと恵を見なさい。逃げたら、どんな扱いを受けるのか…。」
 男に促され、法子は再び恐る恐るステージに視線を向ける。ステージでは先ほどの三人が恵の両乳首のピアスと、秘唇に付けられたピアスに長い鎖を付け、その尻端をそれぞれ客席の嗜虐者に持たせる。嗜虐者達はそれを強く引っ張り、その度に裸身を反応させ悶える恵を見ては悦んでいた。
 すると、妖しい光沢を放つエナメル製で着飾った女王様スタイルの美鈴が登場した。手には、いかにも痛そうな乗馬用の鞭を手にしている。そしてもの凄い笑みを浮かべながら、ピアスを引かれ小さな悲鳴を上げ続けている恵の傍らに立つ。
「さて、今日も随分と綺麗に、画鋲で飾って頂いたねぇ。」
 恵は鼻輪を吊られ醜く歪んだ表情を、恐怖と苦悶で更に歪ませる。
「画鋲、取ってあげるわね。」
 美鈴は大袈裟に笑顔を造る。
「は…い。…どう…うっ、ぞ、…宜しく、…御願い、ぃっ…します。」
 恵の乳房は鎖を強く引かれ、釣り鐘状に歪んでいた。美鈴はその乳房に鋭い一撃を与えた。鋭い打擲音を上げた恵の裸身は仰け反ろうとするが、括られたピアスに更に激痛を与えられ、恵は半狂乱の悲鳴を何度も上げる。その一撃に、乳房を飾った画鋲は吹き飛ぶが、そこからは赤い鮮血が滲み出る。法子の奥歯は音を立てて震え、恵の衣を裂く悲鳴に耐えられず耳を塞ぎたい思いにかられるが、男の頸に腕を廻しているためそれも出来ない。恵の裸身から響く、鞭による不気味な打擲音がする度に、法子の身体は過敏な反応を示す。
「いいか、法子。黒部先生の力は強大だぞ。逃げても、恵のように必ず捕まる。そんなことは考えず、お前はただ、梅田さんや陽子や、俺達の言うことを素直に聞いて、立派な奴隷になることだけを考えていればいいんだ。…分かったな。」
 法子を膝に乗せた男が、法子に諭す。法子は恐怖に怯えた瞳を大きく見開き、何度も頷く。もう、自分は荊の檻に入れられ、そこからは逃れられない。法子に観念に似た諦めの想いが沸いてくる。会場には、恵の悲鳴が休むことなく響いていた。

「みなさま、本日はご来店、誠に有り難う御座いました。…みなさまに、嬲り物にして頂き、とても嬉しかったです。…どうぞ、また、ご来店頂き、わたしどもを、喜ばせて下さい。…宜しく、御願いいたします。」
 日付が既に変わっていた。三人はステージ上で額を床に付け、やはり麻奈美が代表して挨拶をした。三人とも髪が乱れ陵辱の後がその表情にくっきりと出ている。恵などはその裸身に数え切れないほどの無数の傷跡を刻ませ、そこから血を滲ませていた。
(ようやく…、解放される。)
 法子は頭の垂れたまま胸を撫で下ろしていた。
「それでは、今宵お時間の許される方は、どうぞそのままお残り下さい。」
 そのアナウンスを聞き、法子は嫌な予感に胸が重くなる。
(まだ…、終わりじゃないの?)
 暫くして頭を上げることを許された法子は、客席にまだほとんどの客が残っているのを眼にした。法子はどういうことか解らず、忙しく視線を動かす。
「それでは、本日は倉木法子は初日で御座いますので、特別に法子本人に選ばせます。」
 訳が分からず呆然とする法子に、美鈴が近づく。
「法子、これからがお前達の、本当の仕事よ。いい、自分が、これから虐めて頂きたいと思った方を選んで、その方の席まで行って、虐めていただけるよう、土下座するの。」
 法子は美鈴の言葉を聞き、血の気が思い切り引くのを感じた。解放されるとばかり思っていただけに、落胆する想いは激しかった。
「どうしたの…。早く選びなさい。」
 美鈴に急かされ、法子はふらふらと立ち上がり、客席を見まわす。自ら陵辱される相手を選ばされる屈辱と羞恥に、その裸身は震えていた。その眉間に苦渋の皺を深く刻み、法子は美鈴に縋るような視線を送り小さく頭を振った。美鈴は射るような視線を法子に向けると、
「それとも、陽子さんに報告する?法子が、我が儘な、駄目な奴隷です、って…。」
 法子の脳裏に厳しい表情の陽子が浮かんだ。法子は唇を強く噛み締めると、項垂れる。「ほらっ、罰を受けたくなかったら、とっとと行くのよ。」
 法子は美鈴に背中を押され、ステージを降りた。
(いったい…、誰を選べば…。)
 法子は足枷の鎖を響かせながら、客席の間を彷徨う。眉間に刻んだ皺はそのままだ。客達は苦渋の選択を強いられている法子に、卑しい笑みを浮かべ見つめていた。みなが舌なめずりして法子を待っているようで、法子にはその表情が恐ろしく、背筋も冷たくなる。
「法子っ、早く決めなさい。」
 ステージからの美鈴の厳しい口調に、法子の裸身は怯えたように過剰な反応を見せた。(早く…、早く決めなきゃ。)
 法子は小さな溜息を漏らすと、とあるテーブルの前でふと脚を止めた。
(…瀬田さん、なら…。)
 その男は、中年初老が多数の会員達の中でも、唯一三十代中ばの男だ。その容姿は涼しげで爽やかな涼風をも伴っている。法子は、大きく息を吐くと瀬田の前で平伏した。
「…瀬田様。…宜しかったら、わたしを、…虐めて、頂けますか?」
 瀬田は凄みのある笑みを浮かべた。
「駄目よ、瀬田さん。今晩はわたしとって、言ってたじゃん。こんな穢れた奴隷のことなんて相手にしないで、断ってよぉ。」
 隣で瀬田に絡みついていたホステスが、法子にわざと聞こえるように瀬田にせがんだ。法子の胸は屈辱でどろどろになる。何も好んで身体を穢がされた訳じゃない、好んで被虐を請うているのではない、そう大声で言いたかった。しかし、自分は人間としての尊厳も権利も剥奪された卑しい奴隷なのだ。法子の眼に、屈辱の涙が滲む。
「いいじゃん、加奈子。三人で遊べば…。お前も、こいつのこと虐めてやれば?」
「わたし、変態じゃないもん。…でも、法子だったら、虐めてみようかな。」
 唇を尖らせていた加奈子は、法子を眼下に見下すとにやりと笑う。
「法子。いいぞ、虐めてやる。」
 法子は嬉しいような、哀しいような複雑な心境になるが、引きつったような笑顔を浮かべると、
「有り難う…御座います。」
 いつの間にか美鈴が平伏している法子の背後にいた。
「良かったわねぇ、法子。…それじゃぁ、出口に立ってなさい。」
 法子は美鈴に従い、出口付近に裸身を佇ませていた。安岡が法子の拘束具を全て外す。
 次は麻奈美のようであった。会員達の間では陵辱する順番が不文律に決まっているようで、法子は初めてということもあり本当に選ばされたようだが、麻奈美自身は長い奴隷生活で順番があることは薄々気づいているようだ。しかしそれが誰ということは知らず、勘で探り土下座しているようだ。何人目かでその相手を探り当てると、法子の脇に来て佇む。
 恵は悲惨であった。拷問にぼろぼろになった裸身を引きずり、土下座し被虐を請うても、お前のような未熟な奴隷の相手は出来ない、などと怒鳴られ、蹴飛ばされている。どのテーブルで土下座しても罵られていた。最後の頃は泣きながら必死で被虐を懇願している。ようやく相手が見つかると、恵は心からの感謝の言葉を泣きながら繰り返していた。法子はそんな恵を見ていられず、項垂れていた。隣ではやはり麻奈美が眼を伏せている。
(今なら…、聞ける。)
 法子は誰にも悟られぬよう当たりを見回す。悪いことでもするかのように、心臓が激しく脈打った。
「あの…、麻奈美、さん。」
 法子に話しかけられ、麻奈美はその裸身をぴくりと反応させた。
「ここは、毎日…、ですか?」
 小さな声で法子は麻奈美に答えを求める。麻奈美は、伏せていた眼だけを周囲に配るとやはり小さく答えた。
「わたしは…一週間に、一回、よ。」
「…わたしたち、のような女性は、他に、何人、いるんですか?」
 全ての疑問を解決させたい。わたしには問いただす権利もないのだ…、法子は麻奈美に質問を繰り返す。
「わたしも、それは知らないわ。…多分、十人位だと、思う。」
 麻奈美も怯えていた。長い奴隷生活は自由に話す権利さえ奪われているようだ。もっと聞きたい、法子は口を開きかけたが、恵が嗚咽を漏らしながら二人に近づいてきたので慌てて口を閉じた。
 それから出ていく客全てに深く腰を折り、感謝と再会を願う言葉を言わされた。法子は被虐の相手として選ばなかった謝罪まで一人一人にさせられる。中には、記念だ、などと言って、法子のまだ生え揃わない薄い翳りに手を伸ばし、引き毟っていくものもいた。法子は苦痛に顔を歪ませながら、感謝と謝罪の言葉を繰り返す。
 瀬田が法子の目の前に来た。
「じゃぁ、行くか。」
 瀬田は震える華奢な法子の肩に手を回した。法子は瀬田の腕に抱かれ、裸身を小刻みに振るわし、項垂れた。淫獄は絶えず続くようだ。振り返ると、やはり麻奈美が裸身を抱かれ、階段を上がってくる。自分の行く末は麻奈美か、それとも恵なのだろうか。真っ暗であった法子の辿らされる道に、幾らかの灯りが見えたような気がした。しかしいずれにしてもその道は恥辱と屈辱にまみれていて、幾分かの灯りに照らされることで、それがはっきりと映し出されただけであった。

 


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恥辱小説の部屋

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