『麗と隷』
       第六話       

第六話

 車は何処に向かっているのだろう、何故ポケベルを鳴らしたのだろう、陽子が美菜に、法子に加虐することを許可したのは本当だろうか、車窓から流れる景色をぼんやりと見つめながら、法子の頭の中にはさまざまな疑問が湧いては消える。そんな数々の疑問も何一つ陽子に問いただせない、奴隷として調教されつつある自分に、法子の胸は重く沈んでいた。浮かない表情の法子を見て、陽子が低い声で話しかける。
「法子、学校では美菜ちゃんに従いなさい。」
 法子は俯いたまま唇を噛む。奴隷から解放されると思った高校生活も陵辱の場へと変わってしまった。喜んでいた分、その落差が辛く苦しい。
「天下のアイドル、倉木法子が、高校に行ってないなんて可笑しいでしょ。だから、高校に通わせようってことになったの。だから、どんなに辛くても退学はさせないから、そのつもりでね。…でも、美菜ちゃんには厳しく言っといたんだけど、セックスは禁止だからね。もし、そんな事になったら、私に言いなさい。分かった。」
 法子はコクリと頷く。
「じゃぁ法子、これからお前に罰を与えるわ。いいわね。」
 車は駅前の交差点に止まっていた。法子は気付かれぬよう小さな溜息を漏らす。
「は…い。…宜しく、お願いします。」
 震えながら言ったものの、この雑踏の中でどんな罰を受けるのか不安で胸が高鳴る。
「田口、梅田社長に、少し遅れるからって連絡しといて。」
 田口は無言のまま頷くと携帯を手にした。法子は陽子に従い車から降りた。法子は俯きながら陽子の後に続くが、制服は美菜に与えられた露出度の高い制服で、下着も取られたままだ。恐らく通行人に好奇の視線を浴びているに違いないが、法子自身顔を上げる勇気は無かった。駅の改札口付近の一番人のごった返しているところまで来ると、陽子が振り返って怯える法子にまるで唄うように、
「うんと辛くて、恥ずかしい罰にしようね。そうじゃないと、お前のためにならないものね。」
 法子は上目遣いに陽子を見ると、歯に噛み小さく頷く。
「これを、履きなさい。」
 陽子から手渡された物は、不気味な光沢を放つ黒革の貞操帯のようであった。訝しげにそれを手にした法子は、自分の肛門にあたる場所に、直径3cm程の突起が有ることに気付く。クリトリスの辺りにも突起がある。前に、藪に履かされた貞操帯と似ているものの、別の物であった。
「早く履きなさい。…でも、ちょっと、お尻の穴に入れるの、きついかな…。自分で舐めて、入りやすくしといたら。」
 法子は小さく返事をするが、そこは公衆の面前でもある。法子の心臓が再び激しく脈打つ。法子は俯くと不気味な突起を舐めるが、涎で光らせていくうちに、その突起には細い管が有ることに気づく。何の役目を負うのか法子には分からなかった。そして、目立たぬよう壁を背にし素早くそれを履き、眉間に皺を刻みながらも自ら舐めた突起物を肛門に埋没させた。
「入った?」
 陽子の問いに、法子が頷く。
「じゃぁ、罰を与えるわ。その貞操帯はね、アヌス栓も兼ねてるの。細い管があったでしょ。あそこから浣腸液を入れられるのよ。便利でしょう。」
 陽子は笑いながら、法子にイチヂク浣腸を1ダース手渡す。法子の胸に、あの辛く屈辱の痛みが去来する。
「お前の気に入った人に声を掛けて、入れて貰うのよ。」
 法子は余りのことに、その円らな瞳を更に大きくさせ、陽子を見つめた。
「社長、待ってるんだから早くしなさい。私は、此処にいるから…。」
 法子は呆然と立ち竦んだ。足下から伝わる震えが全身に及ぶ。
「出来ないの?」
 陽子の眼が冷たく光る。法子は慌てて頭を振るが、なかなか脚が前に出ない。
「いいわ、出来ないなら、今晩、達夫さんに預けるから…。」
 陽子が怒ったような口調でその場から立ち去ろうとした。
「まっ、待って…下さい。…します。…させて、頂きますから。」
 法子の急所を付く陽子の言葉に、法子は焦り懇願した。達夫の相手をさせられる位ならどんな事でも…、法子の瞳に決意が宿る。
(達夫の事出せば、何でもするのね…。便利な奴隷ね。)
 陽子は思わず可笑しくなり、声に出さない笑い声を上げる。
「じゃぁ、躊躇った罰よ。」
 陽子はそう言うと、法子の二つしか付いていないブラウスのボタンを外し、その裾を括る。それにより法子の谷間も膨らみも、臍も露わになってしまった。そして、ブレザーをも奪われ、法子の小さな乳首が薄く浮かび上がる。茶髪でチャラチャラした今時の女の子であれば、その装いも奇抜には映らないのであろうが、法子のように清楚で清潔感の溢れる美少女には、妙にアンバランスな装いである。法子はショーウィンドゥに映る自分の恥ずかしい装いに思わず眼を反らし、俯く。
「躊躇うと、もっと恥ずかしい格好、させるわよ。」
 陽子の声に、法子は雑踏に震える脚を踏み出した。法子の心拍数は天をつき、浣腸液を手にする腕はぶるぶると震えている。人の通りに逆らい立ち竦むと、法子に一層の視線が浴びせられる。まともに顔を上げることさえ恥ずかしい。ましてや自分は全国に名の知れているアイドルなのだ。誰かに声を掛けられたら…。様々な不安が法子の胸を苛む。しかしこの罰を受けねば達夫に…、そして大きく息を吸うと、法子は忙しく歩く中年のサラリーマンに声を掛けた。
「す、すみません。」
 きらきらと輝きを放つ美少女に、突然声を掛けられたサラリーマンは思わず立ち止まった。法子が声を掛けると同時に、クリトリスに当たる突起がモーター音を響かせ法子に刺激を与える。法子は眉間に皺を刻み、腰をくねらせた。そのサラリーマンは、奇抜な法子の装いに冷めた一瞥を向けると、怪訝な表情で立ち去ろうとした。法子は、淫らな刺激に悩まされながらもサラリーマンの背広の裾を掴み、上気しだした表情を向けると、震える声で、
「あの、…浣腸、して、下さい。」
 サラリーマンは、驚愕と軽蔑の入り交じった視線を法子に向けると法子の手を払い立ち去った。その時、振動も止む。法子は小さく溜息を吐き陽子に縋るような視線を向けると、陽子が手招きしている。
「断られたの?」
「は…い。…ご免なさい。」
 震える声で答えると、法子は俯く。
「じゃぁ、自分で入れるのよ。」
 事も無げに法子に命令する陽子に、法子は俯いたまま小さく返事をした。そして、再び壁を背に起つと、浣腸液の封を切り恐る恐るそれを自分の肛門に近づける。ストッパーに開いた小さな穴にその先端を差し込むと、法子は眼を瞑り、小さく息を吐く。自分に激痛を与える責め具を、自らの手で施す。その屈辱に身体は熱くなり、呼吸も苦しい。
「入れた?」
 陽子に急かされ、法子はイチヂク浣腸を握りつぶした。冷たくおぞましい液体が法子の体内に入る。
「…入れました。」
 法子は震えながら空になった容器を掲げた。
「いい、誰かに入れて貰えるまで、続けるからね。苦しくて、恥ずかしいなら早く誰かに入れて貰いなさい。」
 法子は項垂れると、小さな声で返事を返し再び人の波に脚を向けた。
 法子が勇気を振り絞り通行人に声を掛けても、みな法子の装いと奇妙な申し出に訝しがり立ち去ってしまう。既に六個のイチヂク浣腸が法子の体内に消えた。声を掛けるたびに淫靡な振動が法子を刺激し、法子の身体をくねらせる。それだけではない。法子の体内に沈んだ液が、次第に暴れ出し法子の腸に捻るような激痛を与え始めていた。法子の身体からは脂汗が滲み始め、噛みしめる奥歯が軋んでいる。ブラウスは汗で透け、法子の乳首をより一層際立たせた。
「苦しい?」
 陽子がにやにやしながら問いかける。法子は苦悶する表情を陽子に向けると、身を捩り息を荒くしながらも頼りない足取りで再び人波に入っていく。
「す…、すみま…せん。」
 如何にも遊び人のような軽薄男が法子を振り返る。その男は法子の装いを見ると、驚きの表情を浮かべるが、すぐにその唇を歪ませた。淫靡な振動が音を立てる。法子は、眉間に苦悶の皺を刻ませると、汗を滲ませた顔を上げた。
「あの…、浣腸…、浣腸…を、入れて…下さい。…お願い、します。」
 譫言のように繰り返すその内容に、その男は再び眼を丸くした。
「あれ?…あんた、…倉木法子?」
 法子の汗が一気に引っ込んだ。今まで、恐らく自分の事など知らないだろうと思われる世代に声を掛けてきたのだが、逼迫した状況に、確かめもせず声を掛けてしまった。法子は陽子を振り返り、縋るような瞳で救いを求めた。
「ねぇ、そうでしょ。」
 男は法子の顔を覗き込む。法子はその視線から避けるように俯くが、男が執拗に法子を追いかけた。
「ち、違い…ます。私、そんなんじゃ…ありません。」
 法子は淫靡な振動と、腸内の激痛、そして男の好奇の視線に絶え絶えな声で否定するが、男は尚も法子を問い詰める。その時陽子が近づく。
「どうしたの?この方が、協力してくれるの?」
 法子は陽子を振り返ると、小さく頭を振る。男は陽子の出現に怪訝な表情を浮かべるが、陽子に問いただした。
「この子、倉木法子、でしょ。」
「そうよ。」
 陽子は事も無げに言った。法子ははっとし陽子を見つめるが、唇を強く噛むと俯く。
「やっぱり、…でも、天下の倉木法子が、どうして?」
 男は改めて法子の全身を舐めるような視線で無遠慮に見つめた。法子は羞恥と断続的に襲う激痛に身を捩り続けている。
「実はね、この子、色気ってもんが全く無くて、それで芸能界での幅を出させるために、自らの希望でこんな事してるのよ。」
「へぇ…、アイドルも、大変だね。」
 法子は限界に近い腸の痛みに苦悶の表情を浮かべ陽子の言葉を聞いていたが、その陽子に脇腹を突っつかれた。法子は陽子を上目遣いに見つめるが、逼迫した表情を男に向けた。
「そ…、その、お願い…します。…浣腸、して、下さい。」
 この苦痛から逃れられるのなら、もう何を思われても良いような自虐的な想いに駆られた。男は法子を見つめる。雑誌などで見る清楚なイメージの法子と尋常ではない懇願をする法子のギャップに、その男は戸惑いの表情を浮かべるが、やがてにやりと笑うと、
「いいよ。」
 法子は全身の力が抜けたように、肩を落とし一瞬安堵の表情を浮かべるが、これから襲うであろう羞恥に再び苦悶の表情で身を捩る。陽子は男を壁際まで招いた。
「じゃぁ、法子。スカートを捲って、入れて貰いなさい。」
 法子は陽子に気弱な視線を向けるが、陽子の射るような視線に跳ね返される。辺りを見回すと、大勢の通行人が何かに追われるように足早に過ぎていく。法子は公衆の面前でスカートを捲り浣腸される露わな自分を想像した。すると、自分でも不思議に思えるほど腸の痛みが緩やかになった。
(ど、…どうして?)
 自分に問いかけるが、答えは分かっていた。自らの貪欲なほどの淫靡な性癖が、腸の痛みを押し返しているのだ。己の淫らな性癖に大きな溜息を吐くと、法子は丁重なお礼の言葉を男に告げ振り返りスカートを捲って小さな臀部を露わにした。
「この管に、差し込んでね。」
 陽子は男に呑気に説明をする。
「じゃぁ、入れるよ。法子ちゃん。」
 冷やかすような口調で男は浣腸液をねじ込んでいく。
「…ぁあん。」
 法子の口から熱い吐息が漏れる。自ら入れたときは不気味に思えた冷たさが、今は火照った身体に心地よく体内に浸透していく。男は法子の痴態に思わず陽子を仰ぎ見る。
「変態なの、この子…。だから、こうしてたまに要求不満を解消させないと、狂っちゃうのよ。」
 男は呆れたように口を開け、法子の痴態に食い入っている。
「法子。顔上げてご覧。みんな、お前のこと見てるよ。…嬉しいねぇ。」
 法子は陽子の言葉に、顔を上げる。みな法子に好奇や軽蔑に満ちた視線を向け、通り過ぎていく。それらの視線に刺激され法子の身体に言いようのない戦慄が幾度も走る。法子の呼吸はやがて荒々しいものから、激しい愛撫を受ける喘ぎ声に近いものに変わっていった。その時、陽子がバイブのスイッチを入れる。
「あぁ…ぅん。」
 法子は固く眼を閉じきつく唇を噛むが、法子を襲う官能の波が法子の唇を押し開く。
「法子、折角だからこの方に、お前の排泄姿、見て頂こうか?」
 法子はとろんとした瞳を陽子に向けこくりと頷くと、しっとりと濡れた表情で男を振り返る。男はその妖しく妖艶な法子に思わず仰け反った。
「あの…、宜しかったら、…私の、…恥ずかしい姿、…ご覧になって、…頂けますか?」
 男は法子の圧倒的な痴態に、思わず頷く。法子は、男に微かな笑みを向けた。
「法子。こっちにおいで。」
 法子は腰をくねらせながら、官能にどっぷりと浸った表情を晒し陽子の後を頼りない足取りで従う。陽子は人混みを掻き分け、駅の男子便所に二人を誘う。法子の理性は完全にその姿を消していた。視野の狭くなった瞳は陽子の背中を追うことのみ機能し、他の利用客にまで視線が届かなくなっている。みな法子の奇抜な装いと異様な様に驚きの視線を向けた。
「ここで、出しなさい。」
 法子はまるで催眠術にでも掛かっているかのように、こくりと頷くと和便器に跨る。
「よく見えるように、こっち向くのよ。」
 法子は陽子に湿った瞳を向けると、従順に従う。そして、淫らな液に濡れた貞操帯を外すと腰を下ろした。扉は開いたままである。陽子と痴呆のような表情をした男が法子を見下ろしている。法子は眉間に深い皺を刻むと、二人を仰ぎ見る。
「出しても、…いい、…ですか?」
「いいわよ。」
 法子の表情は苦悶と官能に満ちたそれから、穏やかなものへと変わると、派手な崩壊音を響かせ、液体と化した排泄物を便器に叩き付けた。男は、まるで取り憑かれたように法子の浅ましい姿を目に焼き付けている。他の利用客も、法子の痴態に足を止め蔑んだ視線を送っていた。
(ふふ、法子ったら…、感じ始めたら、何でも出来ちゃうのね。)
 法子を見つめる陽子の瞳は妖しく光り、その表情は喜悦に満ちていた。

 法子は車の後部座席で項垂れていた。火照った身体は、時間が経つにつれ次第に冷めていく。今更ながら、自分の最も恥ずかしく屈辱的な行為を大勢の他人に晒したことに恥じ入っていた。しかも、自分はその行為に悦びを感じていたのだ。法子は小さな溜息を漏らすと、自らの底の知れない淫らな性癖を嫌悪した。
「法子。…お前って、凄いわよね。私も、何人もの奴隷を見てきたけど、あそこまでして悦んでるのって、お前が初めてよ。」
 法子は身体を縮ませ、羞恥に全身を紅潮させた。
「でも、分かったでしょ。お前は、もう人間じゃないのよ。普通の女の子だったら、恥ずかしくて気が狂うほどのことを、お前悦んでしてるんだもの。感じてるんだもの。…だから、自分のこと人間だなんて思ったら駄目よ。変態のお前と同じ人間だと思われたら、普通に生きてる女性に迷惑よ。」
 じんじんと法子の胸に突き刺さる陽子の言葉に、法子は唇を強く噛み俯いたままだ。
(わたし、普通じゃ、無いの?本当に、変態なの?)
「お前のそのどうしようもない変態な性癖を生かせるのって、変態奴隷しかないんだから、人様を尊び、一生懸命みんなに御奉仕して、立派な奴隷になるのよ。…大丈夫、お前なら一流の奴隷になれるわ。」
 法子の心の奥底のか弱い部分を鋭い刃物で刻まれるような陽子の言葉に、法子は円らな瞳を潤ませ、陽子を仰ぎ見た。
「わたし、…わたし、こんなに厭らしくて、…いいんですか?」
 自分の淫らな血と健気に闘う法子に、陽子は思わず法子を抱きしめた。そして、法子の耳元で優しく囁く。
「いいのよ、どんなに厭らしくても。…恥ずかしがらないで、誇りに思いなさい。お前は、…自分に素直になれば、それで良いの。」
 陽子の慈しむような言葉に、法子は穏やかな童女のような表情を浮かべると陽子の胸にその小さな顔を埋めた。そして、瞳からは一筋の涙がこぼれ落ちる。法子自身その涙の意味に戸惑う。嬉しいのか、哀しいのか自分でも分からない。しかし、陽子の胸に凭れていると、荒れ果てていた法子の胸中は緩やかに凪いでいった。   

 車はとある建物の駐車場へと滑り込んだ。ここが何処なのか、どんなことをされるのか全く説明もされない法子の胸は、不安に重くなる。しかし、駅での懲罰に身体を極限にまで火照らされた法子は、頂点にまで登り詰めていないこともあり、心の奥底で被虐の波に揉まれることに淡い期待を抱いている淫らな自分がいることに気づく。
(わたしったら…、嫌っ…。)
 陽子に自分の淫らさに誇りを持て、などと諭されたが、やはり淫乱な自分に誇りなど持てない。理性と本能の狭間で、法子は苦しんだ。苦悩する法子の心境など意にも介さず、陽子は冷ややかな視線を法子に向ける。
「法子、裸になりなさい。」
 法子はその瞳を大きくさせ、陽子を振り返るが、陽子はそんな法子を見ようともしない。法子は小さく息を漏らすと、改めて抗えない自分の身分を知り、車中で制服を脱いだ。
「靴下も、靴も脱ぐのよ。」
 陽子は相変わらず法子に眼をくれない。法子は項垂れたまま陽子の命令を聞くと、それに従う。何人もの相手に、何度もその裸身を晒してきたが、その恥ずかしさには一向に慣れない。法子は俯き、全身を紅潮させ自らの裸身を抱く。
「じゃぁ、行くわよ。」
 裸のまま何処に?、法子は問いかけたい気持ちを喉に押し込め、陽子に従う。田口は二人が車を降りると、法子の衣類を乗せたまま去っていってしまった。法子の胸は重く沈む。コンクリートの冷たさが、法子の素足にダイレクトに伝わってくる。法子は唇を強く噛みその惨めさに耐えた。陽子は駐車場からすぐのエレベータに乗ると、三階を押す。法子の胸は張り裂けそうなほどその心拍数を上げる。三階に着きエレベータの扉が開くと、そこにはこぢんまりとした前室があり、訝しげな扉があった。陽子は備え付けのチャイムを鳴らす。待つほどの事もなく、扉が重く開いた。
「おぅ、社長が、お待ちかねですよ。」
 扉を開けたのは安岡であった。法子は、はっとして陽子の陰に思わず隠れる。安岡の法子を見る目はまるで獲物を狙うかのように常に血走っている。安岡は全裸の法子を見つけると、
「おぉ、法子。素っ裸かぁ。」
 辺り構わぬ大声に、法子は全身を羞恥に紅く染めると、その美しい裸身を縮ませ震わせた。
「法子。ちょっと待ってな。」
 陽子は、廊下に法子を残すと隅の扉をノックし入っていってしまった。安岡が凄まじい笑顔を見せ、陽子の背中を見送る。法子はその笑顔に背筋が凍る。安岡は法子を振り返るといきなり法子に抱きついてきた。
「きゃっ…。」
 小さく短い悲鳴が法子の口から漏れる。
「なぁにが、きゃっ、だっ。奴隷のくせによぉ。」
 安岡が法子の髪の毛を鷲掴みにし、乱暴に揺さぶる。
「ご…、ご免な…さい。…突然、だったので…。」
 法子の声も揺れる。安岡は下品な笑みを漏らすと、法子の唇に貪りついた。それはキスなどという甘美なものとはほど遠く、安岡の唾液で法子の唇と舌を陵辱し、吸い尽くすかのようである。法子はその気味の悪さに苦悶の表情を浮かべるが、拳を強く握り必死で耐える。安岡の武骨い手が法子の熟れきっていない華奢な裸身に絡みつく。安岡のそれは愛撫などと形容するには荒々しく、激しい。法子はそのおぞましさに全身に鳥肌を立たせ必死で耐えるが、安岡の手が法子の秘部に伸びる。法子は反射的に腰を引くも、安岡は強引に割って入る。すると安岡は吸い付かせていた唇を離し素っ頓狂な声を上げた。
「あれぇ〜、濡れてんじゃねぇか…。」
 法子はその声に紅くなった全身を更に染め、俯き恥じ入る。安岡は法子の秘液に光った手を法子に掲げると、
「てめぇのきったねぇマン汁、てめぇで舐めろ。」
 法子は眉間に屈辱の皺を深く刻ませ、安岡の湿った手を見つめるが、震える唇を開き安岡が差し出す指に近づける。
「俺、便所行っても、手、洗わねぇが、お前には丁度いいだろぅ。」
 法子はその声に一瞬躊躇うが、毒でも頬張るかのように安岡の手を含んだ。
「チンポ舐めてるみてぇだな。」
 やがて安岡は法子の口の中を荒々しく掻き回す。法子は嘔吐感を催しながらも必死で耐える。安岡の空いた手が再び法子の秘部に伸びた。駅での懲罰に火照っていた法子の身体ではあるが、安岡は自らの欲望のみを満足させるためだけに陵辱を続け、そのおぞましさで法子の身体には絶えず悪寒が走り、被虐の炎は一向に燃え上がらない。
「法子、こっちに来なさい。」
 陽子が扉を開け、法子を手招きした。安岡が陽子に小さな舌打ちをした。法子は陽子の声にほっとすると、安岡から離れようとした。
「おいっ、お礼は?」
 法子は唇を噛み俯くが、安岡を振り返り、裸身の腰を深々と折る。
「…有り難う、…御座いました。」
 おぞましいだけの相手にも陵辱された礼を言わされる屈辱に、法子の眼に涙が滲む。法子はその裸身を縮ませながら、恐る恐る陽子のいる部屋へと入った。梅田がデスクでふんぞり返っていて、手前のソファーに座る陽子と談笑していた。
「おい、遅かったじゃねぇか。」
 梅田の威圧感のある声に、法子はたじろぎ陽子に縋るような視線を向けた。陽子は法子に向かい顎で梅田の方にしゃくる。遅れた理由の説明をしろという事であろう、法子は俯く。やがて全裸の頼りなさと恥ずかしさにたどたどしい足取りで梅田のデスクに近づくと、膝を折り額を床に付けた。
「遅れて、…申し訳ありませんでした。…あの、…奴隷として、未熟なわたしに、陽子、様から、教育を、…受けさせて、頂いてました。…だから、…その、遅れました。…わたしに、…まだ、奴隷としての、自覚が、足りないので、…皆様に、御迷惑を、掛けています。…ですから…梅田様も、…厳しい…罰を、与えて下さい。…宜しく、御願いします。」
 法子は震える声ながらも、慎重に言葉を選びながらもしっかりと言う。どんな事を口にすれば梅田が、陽子が、そして嗜虐者が喜ぶのか、次第に分かりかけてきた。自らを殺し、自らを蔑み、自分の意に反すること口にし、ひたすら恭順を誓い頭を垂れれば彼らは喜ぶ。そうすれば、少しは自分に対する懲罰も軽くなる。屈辱と恥辱に満ちた奴隷として生かされることを強いられる、法子の哀れな性が実を付け始めた。
「全く、いつまで甘えるつもりだ。いつまでも半端な奴隷を飼っておくほど、うちに余裕はねぇんだぞ。早く立派な奴隷になって、少しでも俺達に恩返ししろっ。」
 梅田の憮然とした口調に、法子は額を床に付けながら唇を強く噛むが、それでも必死に謝罪の言葉を繰り返した。繰り返すうちに本当に自分が悪いような気がしてくる。
「まっ、罰は後で与えるとして…。ここはなぁ、俺が見てる飲み屋だ。お前が挨拶しに行った会員達が来る。お前は奴隷ホステスとしてその接客をすればいいんだ。…ちょっと、案内するから、付いてこい。」
 梅田は立ち上がると、法子と陽子を伴い部屋を出た。廊下には安岡が控えていたが、その安岡をも伴う。法子は全裸のまま羞恥に縮まりながら頼りなく続いた。廊下を突き当たると階段がある。照明はうっすらと階段を照らしていて、法子の心境を反映するかのように暗く重い雰囲気だ。階段を降りきるとごつい扉があり、それを梅田が重々しく開けると大きな部屋に出た。梅田が照明のスイッチを入れた。法子は薄暗い照明のついたその部屋の全容を見ると、心の奥底に重い物が落ちるのを感じた。
 部屋の中央には丸いステージが1mほどの高さでせり出しており、天井からは鈍い光を放つ拘束具が垂れている。そのステージ中央には鋭利に尖る三角木馬が被虐者を舌なめずりするかように不気味に控えている。そしてステージを囲むように十数組ほどのテーブルが据え付けられ、その一組一組は、高さ1.4mほどのローパーティションで仕切られていた。仕切られた各テーブルごとに鞭や浣腸器、拘束具などが備え付けられていて、法子は自分を襲うであろうそれら一つ一つの拷問器具を見つめると、心底から寒気を感じ自らの裸身を抱くと震えた。
 その時、扉のチャイムが鳴り、安岡が弾かれたように階段を駆け上がった。人の気配と共に安岡と一人の女が降りてきた。法子は陽子の陰に隠れるようにその裸身を縮める。
「おはようございます。」
 梅田達に挨拶をしたその女は、二十代後半の年の頃であろうか、冷たい印象を抱かせる凛とした美しい女だ。
「おぉ、美鈴。…法子、ここのママだ。ここでは、美鈴に全て従え。」
 法子は全身を紅く染め俯く。
「法子っ。何ぼけっとしてんの。美鈴さんに゛ご挨拶゛なさい。」
 法子は陽子の厳しい口調にぴくりと身体を反応させると、裸身を縮ませながら美鈴の前に出ると、膝を折り額を床に付けた。
「み…美鈴様。初めまして…、倉木法子、です。…先日、゛奴隷アイドル゛として、梅田様の、事務所と、契約させて、頂きました。…本日より、こちらで、奴隷ホステスとして、働かせて、頂けることに、なり、嬉しく、思います。…ですが、私は、奴隷としては、まだまだ、躾の、行き届いていない、未熟者で、御座いますので、どうぞ、美鈴様に、厳しい゛教育゛を、して頂いて、私を、…立派な奴隷ホステスとして、育てて、下さい。宜しく、お願い、致します。」
 何度も言わされた屈辱の゛ご挨拶゛の応用だ。しかし、最近はその挨拶をすると、自然に法子の被虐の炎が音を立てて燃え上がるようになってしまった。
「どうしてこんなに変態が多いのかしら。…まっ、よろしくね。」
 美鈴は平伏している法子に蔑んだ視線を向けると、そのまま控え室に消えた。

 法子は美鈴から一通り接客方法のレクチャーを受けると、控え室の中央で全裸のまま正座させられていた。そして、普通のホステスが控え室に入ってくるたび屈辱の゛ご挨拶゛を繰り返す。みな法子に好奇と侮蔑の入り交じった視線を向け、なかには嘲笑を浴びせる者もいた。そこに、やはり全裸の女性が入ってきて、既にいるホステス達に法子と同じように額を床に付け挨拶をした。法子は眼を見張った。その女性はタレントの本条麻奈美であった。麻奈美は挨拶がすむと法子の脇に来て正座する。
(ど、どういう…こと?この人も…わたしと同じなの?)
 法子は麻奈美を見つめた。麻奈美とは初対面であったが、テレビなどで見掛ける姿より実物の方が遙かに美しい。麻奈美は、自分を見つめる法子に曖昧な笑みで返した。
(わたしだけじゃ、…ないのね。)
 法子の気持ちが幾分軽くなった。
「あらっ、法子。今日からご出勤?」
 法子はその声にはっとした。同じ事務所の美玖や沙江、そして光江と今日子が賑やかに入ってきた。法子は羞恥に俯くが、麻奈美は隣で挨拶をする。麻奈美にとってこの四人は年下で、しかもタレントとしても後輩のはずだ。そんな屈辱に麻奈美は耐え額を床に付けている。
「あらっ、法子は゛ご挨拶゛出来ないの?」
 法子も慌てて麻奈美に倣い、額を床に付ける。一体麻奈美はどんな人生を送ってきたのだろう、恐らくは自分と同じ屈辱と恥辱にまみれた時間を幾たびも越えてきたのであろう、しかし、その美しさに翳りは見えない。
 二十人ほどのホステスが揃ったであろうか、みな法子と麻奈美を無視して賑やかに談笑している。みなタレントの卵のようで、スタイルも良く美貌の持ち主だ。業界の話しに悪口を交えながら文句を言い合っている。法子と麻奈美は相変わらず全裸のまま正座をさせられていた。
 辛い。脚の痺れもそうだが、大勢の普通の女性に囲まれ、全裸でいることの屈辱と羞恥に法子は項垂れていた。その時、またも全裸の女性が忙しく入ってきた。あの、松元恵だ。すっかりやつれほっそりとした恵はホステス一人一人のところに赴き、額を床に付け挨拶をし始めた。みなよりも遅れたことを丁重に謝っているが、みなは恵に容赦のない言葉の暴力を浴びせ非難している。法子は恵と麻奈美を交互に見つめた。
(わたしの…、将来が、…居る。)
 法子は、おそらくは自分が辿らされるであろう運命を二人に感じ、焦点の合わない瞳で二人を見つめていた。二人に聞きたいことは山ほどあるが、法子は眼を伏せると全ての疑問を胸にしまう。
「さぁ、みんな、時間よ。」
 美鈴が扉を開け、手を叩きながら入ってくると、みな気の抜けたような返事を返し、がやがやと賑やかに控え室から出ていった。法子はどうしていいのか分からなかったが、恵と麻奈美は傍らで正座したままだ。
「二人とも、準備しなさい。」
 美鈴が二人に言うと、二人は素直な返事を返し、自分達が持ち込んだバックを手にした。
「法子、お前はこっち。」
 法子はおどおどしながらも美鈴に従う。美鈴は部屋の隅のロッカーから拘束具を取り出すと、小刻みに震えている法子のほっそりと長く伸びた頸に首輪を付けた。そして、手枷足枷をも付ける。足枷の鎖は長さ10cmほどしかなく、歩くのにはひどく不自由でよちよち歩きしか出来ない。手枷は前で拘束された。
「次からは、自分でするんだよ。」
 美鈴はそう言い残すと部屋を出ていってしまった。振り返ると二人は扉に向かい正座している。法子は鎖の擦れる音を響かせながら、二人に倣い正座した。何気なく二人を見つめると、法子の胸に衝撃が走り、大きく眼を見開いた。二人ともそのノーブルな鼻にピアスを付けているのだ。それもお洒落な物とはほど遠く、鈍く鐵色に光るそれは直径3cmはありそうだ。まるで本物の家畜にでも施すようなピアスは、鼻だけではなく両乳首にも貫かれているが、果たしてそれだけであろうか…。二人とも清楚な顔とは似つかわしくないそのピアスを垂らし、伏し目がちに佇んでいる。法子は将来の自分を垣間見たような想いがして、思わず眼を反らした。
(わたしも…、やがて…。)
 法子は暗澹たる想いに胸は重く沈み、呆然と床を見つめた。
賑やかな声が、法子達の居る控え室にも届き始めた。法子の胸は次第に高鳴り、拘束された裸身が時折震えている。すると突然扉が開きタキシードを着た三人の男が入ってきた。一人は安岡だ。安岡は法子の首輪に2mほどの長さの鎖をくくりつけ、別の男がそれぞれ恵と麻奈美の鼻輪に鎖を付けた。そして部屋から出されると、麻奈美、恵、法子の順で扉の前に立たされた。みな括られた鎖の尻端を男達の手に握られている。
「ふふ…、いよいよ、デビューだな。」
 安岡が法子に卑下た笑みを向けた。法子は緊張と不安で心臓が口から飛び出そうである。その華奢な身体は無様に震え、自分でも止められない。
「それでは、皆様。お待たせいたしました。本日の奴隷ホステスは当奴隷クラブが誇ります、変態アイドル、三人です。なかでも、稀代の変態アイドル、倉木法子は本日よりのデビューで御座います。どうぞ、他の奴隷ホステス同様、思う存分嬲り物にして頂いて、当人を悦ばせて下さい。」
 自分の名前を呼ばれ、法子の裸身がピクリと反応する。そしてアナウンスとともに扉が開くと、眩しいほどのスポットライトが照らされる。鎖を引かれ、麻奈美と恵が入場した。
「さっ、行くぞ。」
 安岡に強く鎖を引かれ法子の意に反して、脚がスポットライトに照らし出された花道へと踏み出る。踏み出したのはそこに入場するためだけであろうか…。果てしなく続く隷従への道が目映く照らし出されているようで、法子の脚は震え、そのぎごちなさは鎖のためだけでは無かった。

 


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