『麗と隷』
       第二話       

第二話

「法子っ。いつまで寝てるの、起きなさい。」
 亜希の怒鳴り声で法子は目が覚めた。法子は、゛教育室゛の中の狭い檻に、全裸のまま寝かされていた。昨夜、朝まで続いた陵辱で、法子の身体の節々が悲鳴を上げている。
(あぁ…、夢じゃ…、なかったの…。)
 法子は亜希の厳しい表情を見て、肩を落とすと小さな溜息を漏らす。
「まったく、奴隷のくせに、私たちより起きるのが遅いなんて…。教育するわよ。」
 法子は゛教育゛という言葉を聞き、弾かれたような反応を示し、檻の中で亜希に向かい額を床に付ける。
「ご、御免なさい。あ、…お、おはようございます。」
 亜希に、拷問に怯え従順になる法子を見て、亜季は満足げな表情を浮かべた。
「いい法子。これからは、゛どうぞ、一日でも早く、立派な奴隷アイドルとなれますよう、本日も厳しい御教育、宜しく御願いします゛って、言いなさい。」
 法子は、額を床に付けたまま唇を噛むが、亜希に言われた屈辱の台詞を繰り返す。
「ついてきなさい。」
 檻から出された法子は、亜希に隠れるように付き従う。法子は不安で胸が高鳴る。白昼のビルの廊下を、身に纏うもの一切与えられず、全裸のまま歩いている自分が信じられないでいた。どうせ着る物を要求したところで怒られるだけだ、そう自分に言い聞かせ羞恥に耐えていた。しかし、法子を襲う生理現象からは逃れられそうにない。
「あ、あの…、亜希様。ト、トイレに、行かせて、頂きたいんですけど…。」
 亜希が立ち止まり、法子を振り返る。法子は反射的に身を固くする。
「いいわよ、こっち…。」
 法子はほっとした。トイレの扉の前に立つと、亜希が顎をしゃくった。法子は、身を縮ませながら、その扉を開け入り口にあるスリッパを履こうとした。その途端、髪の毛を、痛いほど引っ張られる。
「ひっ…。」
 法子は小さな悲鳴を上げた。
「法子っ。そのスリッパは、私達が使う物なのっ。奴隷のお前が、人様の物、勝手に使ったら駄目でしょ。」
「あぁっ…、ごっ、御免なさい。」
「まったく、あれほど昨日、お前の身分ってものを教えて上げたのに、まだ分からないの。」
 法子は必死で謝り続け、亜希の怒りが静まるのを待った。
 素足のままタイルに立つと、その冷たさが一層法子を惨めな気持ちにさせる。
「法子。お前、まさか、便器にするつもりじゃぁないよね。…それも、人間の使う物よ。」
 法子はトイレの中央に立ったまま、俯き唇を噛む。その法子の前に洗面器が投げつけられた。
「お前専用の、便器よ。…法子、その洗面器だってねぇ、本当は、人様が顔を洗うためにあるのよ。それなのに、奴隷のお前が便器に使うなんて、その洗面器に悪いと思わなきゃ、駄目よ。だから、有り難く使いなさいよ。」
 法子は、あの屈辱的な契約を結んだ以上、最早人間として扱われないことに改めて思い知らされた。法子は、小さな声で返事をすると、与えられた洗面器に跨る。
「法子、駄目よ。お前のションベンしてるとこだって、見せ物なんだから、こっちを向きなさい。」
 法子は、改めて羞恥に身体を紅潮させた。そして、亜希を振り返る。
「ほらっ、もっと脚、拡げて。胸を張りなさい。見て頂く人に、よく見えるような格好しなきゃ。」
 法子は、小刻みに身体を震わせながらも亜希の指示に従う。
「それからねぇ、ちゃんと見て頂く人の、顔を見なきゃ、駄目よ。」
 法子は、おずおずと亜希に視線を合わせた。亜希が、冷たい微笑を浮かべている。法子は眼を伏せたいのを必死で堪える。
「いいかい、法子。次からは、そのみっともない格好で、お前の臭いションベン、垂れ流すのよ。それから、昨日も言ったけど、笑顔を忘れないでね。」
 法子は、引きつった笑顔を亜希に向ける。
「ふふ…、いいわぁ、その馬鹿っぽい、笑顔…。じゃぁ、いいわよ、出しなさい。」
 法子は、白痴の様な笑みを浮かべたまま、洗面器に哀しい音を響かせた。時折、伏し目がちになったり、笑みを忘れたりして亜希に怒鳴られる。しかし、屈辱と羞恥の極みに、法子の身体が次第に熱を帯びる。それを亜希に悟られない様にすることに、法子は必死であった。
 
 法子が連れてこられたビルは、とある全国的な組織の持ちビルであった。社長である梅田もその組織に属している。建物は一階がアダルトビデオやグッズなどを販売しているショップで、二階が事務所、そして三階が法子を拷問に掛けた゛教育部屋゛やゲストを招待する部屋等のある階、そして四階が居住区となっている。居住区には、この事務所に所属している女性達や、その組織に属するチンピラ、そして梅田も住んでいる。亜希がトイレに行き終えた法子を連れてきたのは、居住者の食堂となっている三階の部屋だ。
 扉の前で亜希が止まると、法子を振り返る。法子は反射的に身を固めた。
「いいかい、今から、お前を、このプロダクションに所属している他の子たちにも紹介するからね。身体を隠したりしちゃぁ、駄目だよ。お前の裸は、みんなに見せるためにあるんだから。いいね。それから、ほらっ、笑顔を忘れるんじゃぁないよ…。さっ、笑ってごらん。」
 法子は引きつった様な表情で、何とか笑顔を作る。
(他の子?裸で…。)
 作り笑顔をしながらも、また自分を辱める悪魔が増えるのかと思うと、心に重い物が落ちる。
 亜希が扉を開けると、十人程の座席があり、コの字形に配置されたテーブルに、いかにも軽薄そうな四人の女が座っていた。引きつった笑顔、そして全裸の法子を見て、みな一様に驚きの表情を見せた。法子は羞恥に全身を紅潮させる。
「法子、ご挨拶、しなさい。昨日、教えたでしょ。」
 昨夜、法子はみなの陵辱を受けながら、散々亜希に挨拶の仕方や細やかな口の訊き方を、その華奢な身体に鞭を受けながら教え込まれた。しかし、初対面の、しかも同性の前でとなると一層屈辱感が増す。法子の笑顔が消える。
「やっぱり、教育が、必要?」
 ゛教育゛という亜希の嬉しそうな声に、法子は頭を振って、再び引きつった笑顔を必死で繕う。亜希は、そのいじらしい半泣きの笑顔を見ると大いに嗜虐心が掻き立てられる。
(ふふっ…。法子、お前のことは、とことん虐めて上げる。これ以上ないって程、堕として上げるわ。聡への恨みを、お前で晴らさせて貰うんだから…。もう…、二度と普通の、女としての生活なんて、送らせて上げないから…。覚悟しときな。)
 亜希の残忍な想いも知らず、法子は羞恥に俯きながら、コの字の中央に立つ。そして、その場で震える膝を折り、額を床に付け、昨夜教えられた、屈辱の゛ご挨拶゛をする。
「みな…さま。初めまして…、倉木法子、です。この度、゛奴隷アイドル゛として、梅田様の、事務所と、契約させて、頂きました。…実は、私は、…淫乱、露出狂で、マゾという、どう仕様もない、…変態、です。その、厭らしい、性癖の為、前の事務所を、頸になってしまいました。…それで、梅田様に、拾って、頂きました。…卑しい、性癖の為、みなさまには、ご迷惑を、お掛けするかと、思いますが、゛奴隷アイドル゛として、その、性癖に更に、磨きを掛けて、みなさまに、御奉仕するためにも、どうぞ、みなさまに、厳しい゛教育゛を、して頂いて、卑しい、私を、…飼育して、下さい。宜しく、お願い、致します。」
 四人とも、口を閉じるのを忘れたかのようであったが、けたたましい笑い声に変わるまで、そう長くは掛からなかった。法子は額を床に付けながら、唇を噛む。そして涙が一つ、床に落ちる。
「天下のアイドル、倉木法子がねぇ。」
「変態だったなんて。ねぇ。まだ、若いのに…。」
 法子を嘲笑する声が響く。
(ち、違うの…、私、変態なんかじゃ、ない。お、お願い…分かって…。)
 法子は、声にならない悲鳴を、必死であげる。
「まっ、そう言うことだから、みんな、可愛がってあげてね。」
「でも…、亜希さん。どうして、倉木法子が…。」
 一人の女が、怪訝な表情で亜希に尋ねる。
「ふふっ…、実はね、こいつ、役を貰ったり、雑誌に出るために、身体、売ってたんだってさ。信じられる?。まだ十五になったばかりなのに、よ。それがねぇ、普通の売り方じゃぁ無いっていうんだから…。兎に角、物凄い変態プレイを相手におねだりしてたっていうのよ。それで、相手も付き合いきれなくなったんだってさ。そしたら、収録の合間や、寸時を惜しんで、自分を慰めたり、スタッフ達とやってたんだって。それが、前の事務所にばれて、頸ってわけ。それで、そんな淫乱、どこでも引き取り手が無くて、うちで拾ったのよ。うちでも、迷惑なんだけど、ね。その替わり゛奴隷アイドル゛として、契約して上げるって言ったら、こいつ涙流して喜んでたわ。もう、自分の変態プレイをしてくれる相手に困らないって。…そうでしょ、法子。」
 法子は、あまりにも酷い作り話に、呆然とする。
「あれ?…違うの?」
 亜希が期待する返事は分かっている。法子は、底の知れない地獄に自分が堕ちていくのを改めて思い知った。
「は…い。亜希様の、仰る、通り、です。」
 絞り出すように、途切れ途切れになりながらも、亜希の滅茶苦茶な作り話を認めた。これでこの四人が、自分はどう仕様もない変態の淫乱女、そう思われることが辛かった。
「へぇ、それで売れたンだぁ。さいてぇ…。」
「ほんと、怖いわよねぇ。まだ、子供なのに。」
「あらっ、でも、あっちの方は、全然おとなじゃん。」
 四人の陰湿な笑い声が響く。法子は、もうどうでもいいような、自虐的な想いにかられる。
 亜希が何時までも鳴りやまない笑い声を制し、四人の女を法子に紹介していく。その度に法子は引きつった笑顔を相手に見せて、挨拶をする。みんな冷たく、憎しみを含んだような視線だ。榎本美玖、石黒沙江、小沢光江、金沢今日子、四人ともイベントコンパニオンや、Vシネマの安い役、二流雑誌のモデル等、そして夜は、やはり梅田が責任者となっている完全会員制のクラブのホステスをしている。アイドルの第一線で活躍している法子からしてみれば、鼻にも掛けない連中だ。しかし、今は自分は裸のまま床に平伏し、相手は自分を蔑んでいる。
「さっ、食事にしましょ。佐恵子さん、よろしく。」
 一人の中年女性が、法子に蔑むような視線を浴びせながら、食事の世話をした。しかし法子の分は無く、依然額を床に付けたままの姿勢だ。考えてみれば、法子がこの事務所に連れ込まれてから口にした物といえば、男達の白濁だけであり、満足に水すら与えられていない。法子は強烈な空腹感を覚えた。
「法子。四つん這いのまま、こっちへ来なさい。」
 また、自分を虐める気なのであろう、暗澹たる思いのまま、法子は命じられた四つん這いで亜希の元にのろのろと近寄る。
「今から、お前に、餌を与えて上げるから、口だけで食べるのよ。」
 亜希はそう言うと、平伏している法子の目の前に、パンの切れ端を投げつけた。法子は余りの屈辱に、身体が震え、再び涙が滲んでくる。
「要らないのかい?」
 亜希が低い声で法子に尋ねる。法子は頭を垂れたまま唇を血が出るほど噛みしめた。
「折角、お前に餌をあげてるのに、要らないの?」
 亜希の口調が次第に厳しくなる。他の女達が蔑んだような笑みを浮かべていた。
(法子、駄目よ、食べなくちゃ…。また、痛い想いを、しちゃうわ…。)
 法子は、必死で自分に言い聞かせる。
「い…いいえ。…有り難う…御座います。」
 法子は、やっと口を開くと、投げられたパンを口ですくった。
「やっだぁ、ほんとに食ってるよ、こいつ。」
「おもしろぉい。じゃぁ、わたしも。法子、ほら。」
 亜希の真似をして、今度は美玖が肉片を自分の目の前に放る。法子は、半泣きの哀しい笑顔を向けると、やがて諦めたようにのろのろと肉片に近寄る。
「法子。いい、そういう時は、゛餌を与えて頂き、有り難う御座います゛そう言いなさい。」
 亜希の言葉に従い、屈辱のお礼を言うと肉片を口に含む。
 次々に放られる゛餌゛を、狂おしいまでの屈辱感に苛まれながら口に含んでいくうちに、法子自身、心の奥底から静かに燃え始めた、何ともいえぬ奇妙な想いに気づき始めていた。その想いを必死で隠し、如何にも哀れな少女を装う。
「ねぇ、法子。ちょっと立って。」
 法子は美玖の突然の申し出に、心を見透かされたような気がして動揺を見せた。縋るような目つきで美玖を見つめる。
(あぁ…、だ、駄目…、今は…、駄目、なの。)
「法子っ。どうしてお前は、素直に言われたことが出来ないの。本当に゛教育゛するわよ。」
 法子は亜希の怒鳴り声に、慌てて反応すると、美玖の前に向かい、恥辱に震える美しい裸身を晒した。
「ちょっと、後向いて、前屈みになりな。脚、拡げて、お前の厭らしいとこ、拡げて見せて。」
 法子が、俯く。心臓の脈打つ音がみなに聞こえるのではないかと思われるほど、法子の鼓動が激しくなる。ふと、射るような視線を感じ恐る恐る亜希を見ると、亜希の眼は吊り上がり、怒りに震えている。その無言の表情に脅され、法子は命じられた姿勢をゆっくりととった。
(あっ…、そんな、見ないで…。)
 法子は固く目を閉じ、羞恥に耐え、声には上げられない虚しい哀願を心の中で繰り返す。しかし、見られることで、法子の意に反し秘部は潤いを増してしまった。
「ほらっ…、そうでしょ。」
「ほんとだぁ、…濡れてる。」
 法子は、同姓に屈辱に満ちた姿勢をとり自分の秘部を露わにしていることより、そこが、微かに被虐の悦に湿り始めたことに強い羞恥を感じた。
(だ…だめよ。わ…わたしったら…。ど…どうして?)
「ふふ。やっぱ、こいつ変態だわ。」
「こんなことされてんのに、感じてんだぁ。」
「当たり前でしょ。だって、こいつったら、自分から゛奴隷アイドル゛になりたいって、言ったのよぉ。社長の脚に縋ってまでお願いしてたんだから。普通な訳ないでしょ。」
 亜希が追い打ちを掛け、吐き捨てるように言った。
(ち…違う。わ、わたし…変態なんかじゃ、無い…。)
 法子は血が出るほど唇を噛み、屈辱に満ちながらも感じてしまう自分の身体を呪う。
「法子。お前、幾つだっけ。」
 必死で自分と闘う法子に、嘲笑っていた沙江が呆れたような口調で声を掛けた。
「じゅ…、十五…です。」
 法子は恥辱に震えながら絞り出すような口調で答える。
「へぇ〜、十五で…ねぇ。」
「良かったぁ、私、普通で…。」
 固く目を閉じ、それらの嘲笑に耐える法子であったが、また涙がこみ上げてくる。
「あらっ、やだ、もうこんな時間だわ。」
「あっ、ほんとだぁ。」
「こんな変態と付き合ってたら、遅刻しちゃうじゃない。」
 四人は尚も屈辱的な姿勢を続ける法子をよそに、いそいそと食器類を片づけ始めた。そして彼女達が賑やかに食堂を後にすると、法子はその場に崩れ、それまで堪えていた涙を、嗚咽を漏らしながら流し始めた。しかし、その涙は、屈辱に涙するのか、屈辱にまみれながらも、感じてしまう自分に涙するのか、法子自身分からずにいた。ただ、意味も分からず、涙が後から後から溢れてくる。
 亜希が、そんな法子に近づく。そして、いきなり法子の髪の毛を鷲掴みにすると、強烈な往復ビンタを、その頬に見舞う。法子はその余りの痛さに思わず泣きやむ。
「法子。私はね、お前を罰する為に、ここに預かったのよ。お前を、悦ばせるためじゃないわ。それを何なの?、厭らしく濡らしたりして。何、感じてんだい?、ほんと、まるで盛りの付いた、雌犬だわ。」
 亜希は、法子の髪の毛を鷲掴みにしたまま、強引に立たせた。法子の美貌が苦痛に歪む。
「それに、さっき、あの娘達の命令に躊躇ったでしょ。」
 法子の身体が恐怖に固まる。
「゛教育゛して上げる。たっぷりとね。」
 亜希は残忍な笑みを漏らすと、法子の髪を強引に引っ張る。金属的な悲鳴を上げる法子を食堂から連れ出そうとすると、そこに梅田が現れた。
「どぉしたぁ。」
 梅田が呑気な口調で問いかける。
「こいつったら、命令に逆らったのよ。今から、厳しい゛教育゛をするのっ。」
 亜希がまるで梅田を邪魔者扱いするように、横をすり抜けようとした。
「亜希。また、こんどにしろ。今から、法子を連れて行くところが有るんだ。」
 呆れた口調の梅田を、亜希が睨む。
「だっ、だってぇ…。」
 まるで子供のように亜希が駄々を捏ねる。
「帰ったらいくらでもやらしてやるから、今は駄目だ。」
 梅田の強い口調に、亜希は握りしめていた法子の髪の毛を離すと、法子をきつく睨む。
「法子。帰ったら、覚悟しなっ。」
 亜希が吐き捨てるように法子に毒付くと、肩を震わせ部屋を後にした。梅田は亜希の背中に、大きく息を吐くと、怯える法子を振り返った。
「付いてこい。」
 法子は、゛教育゛を免れた安堵感に、ひとつ小さく息を吐くと、梅田に従う。しかし、次第に不安が法子の胸を締め付ける。相変わらず身に纏う物は与えられておらず、その美しい裸身を晒したままだ。そして梅田は、法子を別の部屋に連れ込むと、法子に衣類を差し出した。それは、法子がついこの間まで着ていた中学時代の制服だ。法子はその制服を見ると、ふいに胸に熱い物を感じた。
(あぁ…、この制服、着てたときは、良かったのに…。)
「ふっ、懐かしがってないで、早く着るんだ。」
 感傷に浸っている法子を梅田が急かせる。法子の中学校の制服は、濃紺のブレザーにスカート、そして純白のブラウスに真紅のリボン、そして白のソックスに黒の革靴と、何処にでもあるごく平凡なものであるが、法子が着るとまるでドレスのように華やぐ。ブラウスの襟元から覗く細くしなやかな頸、膝上15cm程のスカートからすらりと伸びる脚、昨夜淫靡な陵辱の限りを受けた奴隷の姿は消え、穢れを知らぬ可憐な美少女が佇む。下着を許されない事を除いて…。
「ふふ、やはり現役だな。お前は制服が一番似合う。見た目じゃぁ゛奴隷アイドル゛だなんて誰も思わないぞ。」
 梅田の揶揄に、法子は歯に噛んだような微笑みで返す。
 それから法子は梅田に従い二階の事務所に立ち寄った。事務所には、安岡と、昨夜法子への拷問を手助けした男の二人がいた。法子は、全てを見られた羞恥に二人の顔をまともに見ることが出来ず、頬を紅潮させ俯く。
「おぉ、法子。ふ〜ん、そんな格好してると、普通の学生と勘違いするなぁ。」
 安岡が法子を冷やかす。法子は、紅潮させた頬を更に赤くさせると、羞恥に歯に噛む。そんな、男の欲情を誘うような、童女の様ないじらしい仕草に、安岡はこの場で押し倒したくなるような衝動に駆られた。
「可愛いなぁ、法子は…。おい、早く、俺にもやらせろよな。」
 普通の女の子なら、そんな下品な言葉を投げられれば、男に批判を浴びせ平手打ちでも見舞うはずだ。しかし、法子は黙って俯き、その屈辱に耐えるしか術がない。
 そこに、社長室に行っていた梅田が戻ってきた。
「社長、俺も早く、法子とやらせて下さいよ。お願いしますよ。」
 梅田は、安岡のことを鼻で笑うと、法子の頭を軽く小突く。
「法子、こういうときは、何て言うんだっけ?」
「はっ…、はい。あっ、あの、…こんな、私で宜しければ、…ど、どうぞ、お相手して、下さい。宜しく、お願いします。」
 法子はそう言うと、ペコリと頭を下げた。すっかり従順になった法子を見て、梅田が満足そうな表情を浮かべる。
「じゃぁ、行くぞ。田口、車を出せ。」
 法子は誰にも気付かれないように、小さな溜息を吐く。

 黒塗りのメルセデスに乗せられた法子は、窓から流れる日常の営みを見つめていた。楽しそうに仲間達とはしゃぐ学生、何かに追われているように歩くサラリーマン、買い物かごをぶら下げた主婦。法子があの事務所に連れ込まれてからも、何一つ変わらない街の風景に、法子は胸を捻られるような痛みを覚えた。いったい何時間前であろうか、法子が彼らと同じ生活を送っていたのは。たった数ミリの車の窓ガラスが、法子にとって、彼ら達との大きな隔たりに思える。
(私は、もう、…あの人達と、違うんだ…。)
 諦めとも、自虐的とも思える考えが、法子を支配する。ふいに、梅田が法子の背中から手を廻すと、ブラウスの上から法子のブラジャーを付けていない乳房に、触れた。法子の身体が強ばる。梅田が、法子の耳元で囁く。
「法子。何を考えている?」
 法子は俯くと、唇を噛んだ。梅田の、法子への慈しむような愛撫が次第に大胆になっていく。そして、ブラウスのボタンを一つ外すと、直接法子の乳首に触れてきた。法子の身体がピクリと反応する。
「法子。いいか、…お前はもう普通の生活は送れないんだ。奴隷として、一生尽くし続けるんだ。…だったら、本物の淫乱になることだ。…本物のマゾに、なることだ。…本当の、変態になれ。」
 法子は、まるで催眠術にでも掛けられているかのような想いになる。梅田の乳房への愛撫は、あくまでも優しく、法子を刺激した。
「感じたら、声を出せ。欲しくなったら、ねだるんだ。もう、お前に理性など要らない。…誰にも遠慮せず、自分の堕ちたいところに、堕ちればいい。」
梅田の愛撫を受け、心地の良い囁きを受け、法子の身体は、次第に力が緩んでいく。梅田の手が、スカートからはみ出た法子の太股に伸びた。
「お前には、その才能がある。男を、女でさえ狂わす資質がある。…後は、お前自身が、恥じらいを捨て、女を捨て、人間性を捨てて、官能の波に、身を委ねるんだ。」
 法子の顔付きが、次第に湿りを帯びてくる。乳首も痛いほどに尖り、上を向いた乳房が天を仰ぐ。法子の身体から完全に力が抜け、四肢が緩む。
(あぁ…、も、もう…いいの?…自分の身体…、嫌いにならなくても…、いいの?…感じても…いい?。)
 梅田の手が法子の秘部に忍ぶ。そこは既に十二分に潤い、梅田の太い指を向かい入れると、法子の熱い吐息が漏れた。
「法子…。」
 耳元で囁く梅田に、法子が気怠そうに顔を向ける。その表情は、先程までの悲劇を背負う哀れな美少女の面影は消え、妖しい光を放ち、濡れた瞳を持つ女へと変貌していた。梅田が、柔和な面持ちで法子に微笑みを与えた。
「立派な奴隷に、…成れるな?」
 法子は、淫猥な溜息を一つ吐くと、小さく頷いた。
(私が…、変わってく…。)
 法子は梅田の大きな胸に、その小さな顔を埋めた。

 ふいに梅田の手が離れた。淫靡な波にどっぷり浸かっていた法子が、玩具を取り上げられた童女の様な表情を浮かべた。
「降りるんだ。」
 法子は、はっとすると、周囲を見回した。それは、巨大な豪邸であった。純和風なそれは、庭も広く、細部に渡り施主の趣が反映されていた。法子は、梅田の後を追った。
(此処は?…こんどは、何を、…されるの?)
 車中で満たされなかった法子の火照った身体は、まだ熱い熱を帯びており、不安に押し潰されそうになりながらも、被虐への淡い期待も芽生える。
(嫌っ…、私ったら、…で、でも…。)
 法子達が通され部屋は、豪奢なソファーが据え付けられている応接室だ。二十分程待たされたであろうか、いかにも精悍で、鋭い眼光を持ち威厳を備えた男が、一人の女性を従えて部屋に入ってきた。法子は、その男の持つ巨大な存在感に圧倒されながらも、ひっそりと佇む女性にも眼を捕らわれた。それは、今まで法子が出会った中では、一際光る美しさを持った美女であった。法子の、触れれば壊れそうで清潔感の漂う美しさに反し、その美女は、成熟しきった女の色気と、弾けるような肢体、そして服を着るだけでは抑えきれないほどの色香を放っていた。法子は、同性ながらも思わず見とれてしまう。
「先生、お久しぶりです。」
 梅田が立ち上がり最敬礼をする。それを見た法子も、慌てて立ち上がると、梅田に倣い深々と頭を垂れる。
「うむ、久しぶりだな。」
 男がソファーに音を立てて座る。女は、二人に無言のままお辞儀を返すと、男の後にひっそりと立つ。男達の雑談が交わされ始めた。男が煙草を口にすると、女が素早く火を付けた。そこまではごく自然な光景である。しかし、男が煙草を吹かし始めると、女は水をすくうような手をし、男に差し出した。男は事も無げに、その手を灰皿代わりに使い始める。法子はそれを見て呆然としたが、驚いたことに、男は女の手で煙草を揉み消した。女は、その熱さに眉間に皺を寄せ耐えるような表情を浮かべたが、すぐに平静を取り戻した。法子が息を飲む。驚愕の表情を浮かべる法子に、男は始めて目を向けた。
「ん?どうした、驚いたか?」
 法子は、何と答えて良いのか分からず、梅田を見る。
「早紀、この子に、見せて上げなさい。」
「…はい。」
 早紀と呼ばれた女は素直に返事をすると、ソファーの横に立ち、衣類を落とし始めた。法子は、どうして良いか分からず、いたたまれなくなり俯いた。
「法子。見てみなさい。」
 梅田の声に促され、すっかり全裸になった早紀に恐る恐る目を向ける。その途端、法子の表情が凍りついた。90cmは遙かに越えているであろう、その豊かな乳房と、ツンと上を向いている乳首が艶やかだ。そしてそこには、直径3cm程のピアスが施されていた。しかし、本当に法子を驚かせたのはそれでは無い。下腹部には有るべきはずの翳りは無く、臍の下から鮮やかな赤で゛黒部亮・所有物゛と書かれた刺青が彫られていた。法子の眼は、その刺青に釘付けになったまま動けない。心臓が激しく脈打つ。
「後も見せてやれ。」
 おそらくはこの男が黒部亮なのであろう、従順な返事をした早紀が後ろを振り返ると、法子の身体に、まるでハンマーで頭を叩かれたような衝撃が走った。なんと早紀の背中には、巨大な男のシンボルが背中全体を使いリアルに彫られており、そしてやはり真っ赤な字で、太く大きく゛奴隷゛と、刺青が施されていた。法子は、呼吸をすることさえ苦しくなり、全ての血液が逆流しているかのような錯覚に陥る。気が付くと、拳を固く握りしめ、身体全体が固く強ばっていた。
「ふふ、…驚いたか?」
 黒部が、その精悍な顔に微笑みを浮かべている。
「あ…、あっ、あの…。」
 法子の口からやっと出た言葉は、言葉に成らない。
「こいつはなぁ、俺の奴隷だ。早紀こそが、本物の、奴隷だ。」
 法子の眼は、卑猥な刺青に奪われ、そこから視線を逸らすことが出来ない。しかし、その刺青を凝視していくうちに、法子の呼吸が次第に熱を帯びてくる。心の奥底では、今まで感じたことがないような痺れをおこしていた。
「この前は、こいつに、この刺青が丸見えの服を着せて、繁華街のど真ん中を歩いたんだ。みんな、痴呆の様な顔付きで早紀を見ていたぞ。」
 法子は、思わずその光景を自分とオーバーラップさせて想像してしまう。
(わっ、私が…、こんな厭らしい刺青を入れられたら…、それを見せて、…街を歩かされたら…。)
 法子の表情が、刺青を注視したまま、変貌していく。
「法子。お前の裸、先生に見て頂くんだ。」 
法子は、ねっとりとした視線で梅田を見つめる。
(ふふ、なんだ、こいつ感じてんのか…。感じると、顔付きまで変わるんだな。スケベな顔だ…。これなら、ホントの奴隷になるなんて、わけねぇな。…しっかし、こいつほんとに十五かぁ…。)
 梅田は、最高の奴隷を手に入れたことを改めて知る。
「ほら…、どうしたぁ。」
 法子は、その瞳に淫靡な光を宿すと、小さく頷き、音もなく立ち上がる。そして、ゆっくりと衣類を床に落としていった。
 黒部の鋭い視線が、法子の全裸に刺すような刺激を与える。
「法子。先生の前に立ちなさい。」
 梅田の声に、法子はまるで夢遊病者のように頼りない足取りで黒部に向かい、その前に立つ。黒部の吐く息の熱ささえ感じられる程近寄ると、黒部が放つ圧倒的な威圧感のオーラに包み込まれ、法子は今までに感じたことのない震えをおこす。立っているのさえ苦痛である。恐怖なのだ。怖いのであるが、その恐怖に苛まれることに、言い様のない刺激を受ける。
「うむ…、若い、な。」
 黒部の声におののく。膝が音を立てて震える。しかし、法子の身体は自分では抑えきれないほどの熱を放っていた。ふいに黒部の手が法子の秘部に触れてくる。
「ぁあっ…、あっん…。」
 法子はその可憐な顔とはまるで似つかわしくない、吐息を漏らす。触れられただけで気をやってしまいそうだ。法子の秘部は、今までに無い湿りは溢れそうな程で、熱い。もう少しで…、そこで黒部が手を引く。
「あぁ…ん、…?」
 法子は、苦悩に満ちた表情で黒部を見つめた。歯が音を立てて震えている。
「どうして…、欲しいんだ?」
 黒部の問いに、法子は固く目を閉じ俯く。
「法子。…さっき、言ったろ。…理性を捨てるんだ。お前にとって、それは恥じゃぁ、無い。」
 諭すような梅田の口調に、法子は苦悶の表情を浮かべると、やがて伏せていた視線をゆっくりと黒部に合わす。
「あ…の…、いっ…、虐めて…、下さい。」
 法子は、ようやく言葉を絞り出した。黒部は凄まじいまでの微笑みを浮かべる。
「ふふ…、いいだろう。…嬲り物に、してやる。」
 法子は、あまりの緊張と上気で意識が朦朧とし、その場に崩れる。梅田がその法子を抱えると、黒部邸の地下室に連れ込んだ。
 やがて法子は、早紀を含めた三人にその身体を愛撫され、黒部に、そして梅田に貫かれた。法子は、狂おしいまでの官能に身を委ね、数え切れないほどの波を煽り、何度も絶頂を迎えた。自分へのたがを外した法子にとって、それは今まで感じ得なかった快楽であり、始めて垣間見た自分の生かされる世界であった。

 梅田に揺り起こされ、法子は目を覚ました。いったい何時間気を失っていたのであろう、辺りに目を回すと、黒部がどっかりと椅子に座り、法子を見つめていた。早紀がその傍らに全裸のまま正座している。自分を見るとやはり全裸だ。法子は、自分の狂態を晒した羞恥に今更ながら恥じ入り、その身を縮めた。
「なぁに、今更恥ずかしがってんだ。」
 梅田が苦笑いを浮かべた。法子は、更に全身を紅潮させ、俯く。
「帰るぞ。ほらっ、ちゃんと先生にお礼を言いなさい。」
 法子は、梅田に耳打ちされ、気怠い身を起こすと、尚も羞恥に震えながら黒部の前にひれ伏した。
「く…黒部様。ほ…本日は…、私のような…、半端な…、奴隷の…、お相手をして…、頂き…、有り難う、御座いました。…今後は、私も、立派な奴隷になれるよう、全てを捨てて、努力しますので、…私のようなもので、宜しかったら、また、嬲り物にして下さい。…黒部様に、ご満足頂けるよう、…全てを捧げ、御奉仕させて、頂きます。」 
「うむ…。法子、いいか、…辛いだろうが、立派な奴隷になれるよう、その身を削って、励むんだぞ。…そしたら、また相手してやる。」
「…は…い。宜しく、お願いします。」
 法子は自分でも驚くほど素直な返事をした。早紀がそんな法子を、憂いの含んだ眼で見つめていた。

 事務所に帰った法子は、ジーンズとTシャツ、そしてブラジャーを与えられた。ショーツは無い。法子はそれに着替えると、三階の一部屋を与えられた。そこは衣装室のような大部屋の一角で、三畳ほど畳が敷かれており、窓も何もない部屋であった。
(檻より…、ましか…。)
 法子は諦めたように、その部屋に倒れ込んだ。外からは鍵が掛けられたようだ。度重なる陵辱と緊張に、法子の身体はぼろぼろに疲れ切っていた。
(私、…これから、どうなるんだろ…。)
 法子は自分の将来に、暗澹たる想いになり憂鬱になる。法子が、不安にその胸を痛めていると、鍵を開ける音がした。
 現れたのは、達夫であった。そうなのだ。この男だ。達夫こそが、自分をこの地獄に引き吊り込んだ張本人なのだ。法子の眼が、自然に怒りにきつくなる。
「なんだぁ、お前、その眼は…。」
 法子は、達夫から視線を外すと、唇を噛み俯く。達夫が法子に近づくと、法子の小さな顎を掴んだ。
「ふっ、奴隷のくせに、俺にそんな目つきをしていいのか?」
 法子は、精一杯その眼に憎しみを込めた。しかし、次の瞬間法子の表情が恐怖に凍りついた。亜希が、入ってきたのだ。法子の今までの虚勢が、一瞬に怯えた表情に変わる。亜希は、達夫をじろりと睨む。
「何、してんの?」
 達夫は愛想笑いを浮かべた。亜希はそんな達夫を見下すと、法子に鋭く怒りのこもる視線を浴びせた。法子の身体が恐怖に震える。
「法子、帰ったら、厳しい゛教育゛するって言ったでしょ。それなのに、帰っても、挨拶無しかい?しかも、休もうとしてただろ。」
「ご…御免なさい。あっ…あの…。」
 法子は、弾かれたようにその場で額を床に付ける。法子の身体は疲労が溜まり、重くなっていた。
(お、お願い…。今日は…、もう…、許して…。)
 法子は必死で、声にしてはならない懇願をし続ける。亜希は、法子の想いなど意に介さず、その髪を鷲掴みにすると、顔を強引におこさせ、その頬に強烈な平手打ちを見舞う。法子は恐怖に震えが止まらない。
「法子。あんなにお前に言い聞かせたのに、まだ足りないのかい。お前は、大罪を犯した、奴隷なんだ。本当なら、帰ったらすぐに私のところに来て、゛どうぞ、教育して下さい゛って、頭を下げるのが筋ってもんだろ。お前には、罪を償いたいっていう気持ちが無いんだな。」
「いっ…、いえ、ちっ…違います。」
「だったら、どうして、いつまで服なんて着てんだっ。」
 亜希の怒鳴り声が響く。法子はその声に、疲労仕切った身体に鞭打つように素早く立ち上がると、服を脱ぎ、再び額を床に付けた。全裸を晒す羞恥より、亜希への恐怖が勝る。
「あっ、…あの、ど、どうぞ、…厳しい、御教育を、…宜しく、お願いします。」
 もう、この人達に迎合しなければ、自分は生きていけない…、哀しい諦めが法子の胸を支配する。
「よし…、それじゃぁ、゛教育゛して上げる。」
 亜希は唄うように言うと、法子を゛教育室゛に達夫を伴い連れ込んだ。法子の脚は、益々重くなる。
「さぁて、今日は、何して上げようか。」
 亜希の目つきが嬉嬉とし、不気味に光っている。亜希は恐怖に震える法子の細い肩に手を掛けると、鋭角に尖る三角材の前に法子を誘う。
「今日は…と、これにしようか…。」
 法子に苦悶の表情が浮かぶ。
「なんだ…、嫌なのかい?お前から、゛教育゛してくれって言ったんだろ。」
 亜希の眼に狂気の光が宿る。
「いっ…、いえ。…嫌では、…ありません。」
 亜希は恐怖に怯える法子を鼻で笑う。
「法子。そこに、座りなさい。」
 亜希の鋭く低い声に、法子は身体をピクリと反応させ恐る恐る近づく。亜希を精一杯哀願の籠もった眼で見つめるが、亜希も達夫も残忍な笑みを浮かべたままだ。いつの間にか亜希が竹刀を手にしている。許されることのない責めを、法子は覚悟する。
 法子は、諦めたように大きく息を吸うと、三角材に膝を落とす。
「ぁあ…、はぁっ…。」
 容赦なく脛に食い込む鋭利な角が、法子に激痛を与えた。すると達夫が背後に廻り、法子を後ろ手にすると、三角材から伸びる柱に固定された手枷に、法子の両手首を括る。そして、やはり三角材に取り付けられている革バンドで、法子の太股を固定した。これで法子は立ち上がる自由を奪われる。
「どおぅ、法子…、痛い?」
 法子は、歯を食いしばりながら、必死で頸を縦に振る。気付くと、達夫がなにやら奥から台車を転がしてくる。そこに乗っている物を見た法子は、恐怖に顔が引きつった。それは、幅30cm、長さ50cm、そして厚さが10cm程のコンクリートの塊が三枚も乗っている。
(いっ…、嫌っ…、)
 法子は声に出せない悲鳴を上げる。恐怖と痛みに震える法子を見て、亜希が狂気の笑顔で法子を見つめる。そして、激痛を伴っている法子の太股に、亜希が靴のまま脚を乗せた。
「あぅっ…、あぁっ…、いっ…、いたっ…。」
 法子の美貌が苦痛に歪む。
「法子。マゾで変態のお前には、これ位じゃぁ、物足りないでしょ。」
 亜希が太股に乗せた脚に体重を掛ける。
「ぁあっ…、いっ…、いやぁ…。」
 法子の瞳に涙が滲む。亜希は、その表情に益々狂気を宿させると、脚を離し、法子の太股に竹刀を打ち込む。法子の悲鳴が響く。
「どおなのっ?…物足りないんでしょっ。」
 亜希が再び竹刀を振りかぶる。
「やっ…、はっ…はい。もっ、物足りないです。」
 亜希は凄まじいまでの笑顔を浮かべると、振り上げた竹刀を下ろした。そして、膝を折ると、法子の頬を撫で始めた。
「法子。駄目じゃない。始めから、素直にならなきゃ。素直じゃないから、痛い眼に合うのよ。」
 亜希の、ぞっとするほどの優しい口調に法子は心の底から恐怖を感じた。
「法子。じゃぁ、ちゃんと、うちの旦那に、お願いしなさい。」
 達夫を見ると、やはり下品な笑みを浮かべている。
「た…達夫様。も…申し訳…有りませんが、その…コンクリートを…、私の…脚に…、乗せて、…下さい。」
 法子の瞳から、涙が溢れ出す。達夫は、「しょうがねぇなぁ」、などと言いながら、法子の脚にコンクリートの塊を乗せた。
「くっ…、ああっ…、いっ…痛いよぉ…。」
 法子が童女の様な呻き声を上げると、亜希は法子のか細い肩に竹刀を振り下ろす。法子の悲鳴が響いた。
「こんなに重い物、乗せて貰ったのに、お前は、お礼も言えないのかいっ。」
「あぁっ…、ごっ、御免なさい。あっ…、有り難う、御座います。」
 その美貌を苦痛に歪め、涙に濡らす法子を見て、亜希は興奮した面持ちで法子を見下ろす。
「ふふっ、お前のこと虐めるのって、何て気持ちいいんでしょ。胸がすっとするわ。」
 亜希が再びコンクリートの塊に脚を乗せ、それを揺らした。
「っくぅ…、はっ…はぁ…つっ。」
 法子は声にならない悲鳴を上げる。亜希が法子に顔を寄せる。
「あと、二枚有るけど、どぉうする。」
 亜希が残忍な質問をすると、法子が必死に頭を振る。
「どうするのっ。」
 亜希が再び竹刀を振り上げた。
「あぁっ…、いっ…、あっ、あの…、のっ、乗せて…、下さい。」
「そおぅ、頼まれちゃぁ、仕方ないわね。」
 達夫が、嬉嬉とした表情で残りの二枚を法子に乗せた。法子の脛が悲鳴を上げる。法子は固く目を閉じ、息をすることさえ、悲鳴を上げることさえ苦痛であるかのように身動き一つしなくなる。
「どおぅ?法子、気持ちいい。」
 法子は、虚ろな表情で小さく頷く。
「じゃぁ、もっと気持ち良くして上げるわ。」
 亜希はコンクリートに片足を乗せると、バランスを取り、そして両足を乗せた。亜希も細身とはいえ40kgは越えている。これにより法子は、160kgを超す重さをその脛に受け止めていることになる。
「ぁっ…、はっ…、ぁうっ…。」
 脛の骨が、砕けるのではないかと思われるほどの痛みに、法子は意識が朦朧としてくる。亜希は、苦痛に苦しむ法子を見て狂気の笑みを浮かべたまま、コンクリートの上に胡座をかいた。そして、法子の髪を愛おしげに梳く。
「法子、分かってね。お前が痛い思いをしてるのは、お前が悪いからなのよ。私達の命令には、逆らったり、躊躇ったりしたら、こんなに痛い思いをするんだって、この身体に教え込まなくちゃ、お前は何時まで経っても、お前自身が望んでる立派な奴隷になんてなれないのよ。だから、お前も、一日でも早く、素直で可愛い、何でも出来る立派な奴隷になるのよ。」
 法子は、亜希の狂気に満ちた瞳に吸い込まれそうになりながらも、小さく頷いた。そして、がっくりと頭を垂れると、そのまま意識を失った。

 


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