『サイレント・ラプソディ』
        第四話        

第四話

 自分の悲鳴を聞いた気がした。

 五感が目覚め、葉子は薄暗闇の中で目を開いた。ぼんや
りと部屋の白い天井が視界を覆っている。
 首筋から背筋にかけて、震えるほどに力が入って強張っ
ていた。金縛りにかかったように手足が動かせない。
 ここは・・・あっ・・・
 自分のいる場所を思い出すと、やっと全身の力が抜けて
ベッドに身を沈める。
 全身に嫌な汗をかいていた。特に背中は着ているパジャ
マが張り付き、冷たい感触がする。
 額に張り付く前髪をかき分け、汗をぬぐった。
 枕元の時計を見ると、まだ夜中の一時だ。夢の中では長
く感じた時間も、実際はそれほど深く眠れていなかったよ
うだ。身体に倦怠感がまとわり付き、頭の中もはっきりと
しない。
 窓の外からは雨音は聞こえない。完全に止んだのか、弱
まっただけなのかは分からないが、どうやら残りの撮影は
無事に行う事ができそうだ。あれだけ窓を叩き続けた風も
止み、部屋の中は沈黙を取り戻していた。時計の針が動く
音だけが規則的に響く。
 闇の中で目を開き、大きく溜息をつくと、次第に意識が
はっきりとしてくる。薄い霧がかかっているかのように働
かなかった頭の中にも血が巡っていった。
 また・・・あの夢か・・・
 何年もの間、頭の中を離れることのない光景が再び脳裏
に蘇り、葉子はベッドのシ−ツを強く握り締めた。
 ああっ、駄目・・・また眠れなくなる・・・
 葉子は何度もベッドの上で寝返りを打ち、胸の中に広が
ってチクチクと心を痛めつける、黒い塊のような感情に耐
えた。
 あれから何年も経つのに、まだ苦しみは絶えず、葉子を
付きまとい続ける。

 あの日、永遠に続くかと思えた陵辱の時間が過ぎた葉子
は、香奈子たちに固く口止めをされて家に帰された。解放
された安堵感と身体を蝕む屈辱感に溢れそうになる涙を堪
えながら家の門をくぐった葉子を待っていたのは、帰りの
遅さを咎める両親の怒鳴り声だった。無言で耐え、自分の
部屋に駆け込んだ葉子は、電気もつけずに暗い部屋の中、
独りで泣きむせぶ夜を過ごした。
 月曜日は身体の具合が悪いと言って、学校を休んでしま
った。誰に相談する事もできず、独りで布団の中で体を丸
め、震える体を抱き締めながら込み上げてくる感情と戦っ
た。工事現場で男に犯され、ビデオまで撮られ、さらに少
女たちに裸身を弄ばれて女としての醜態を晒してしまった
。誰にそんな事を告白し、相談できるだろうか。口に出す
事すら、汚らわしく感じる。
 それから数日、葉子は抜け殻のようだった。自分の身を
駆け抜けた凶悪な陵辱を認める事が、どうしてもできなか
った。夢や幻だったら、と何度願っただろう。
 しかし、あれは現実以外の何物でもない。あの悪夢の時
間は、もう取り返しようもない。見知らぬ男に犯され、ビ
デオまで撮られていた。さらに、同性の女子高生たちにま
で性的に苛められてしまった。処女を失った事だけでも衝
撃的だというのに、こんな屈辱的な体験が重なるとは。
 すべてを受け入れることなど、まだ少女を脱しない葉子
にはできるわけがなかった。
 沈み続ける葉子の心に関係なく、芸能人としての葉子は
少しつづ仕事を増やしていった。その豊満な肉体ゆえにグ
ラビアや写真集の撮影に追われ、男たちの好奇の目に晒さ
れる日々が始まる。
 胸や太股に注がれる男たちの視線、視線、視線・・・
 瞬くカメラのフラッシュ、フラッシュ、フラッシュ・・
 向けられるレンズ、レンズ、レンズ・・・
 その一つ一つが葉子の心を引き裂き、押し潰す。まるで
すべての男が自分を犯そうとしているように感じるように
なっていた。
 見ないで・・・イヤッ・・・助けて・・・
 それでも笑顔で応えなくてはならないのが、たまらなく
辛く苦しかった。
 何度も芸能界から身をひこうと思った。
 しかし、ここで逃げることは、あの日の地獄を肯定し、
一生苦しみ続ける事を認めてしまうことになる。そう思っ
て、何とか踏みとどまるが、痛みが和らぐことはない。
 喉がつまったように毎日が息苦しかった。あの時の陵辱
を収めたビデオがあるという事実を思うと、自殺を考えて
しまう。自分の記憶を消し去ることができたとしても、恥
ずかしい映像は残っているのだ。どんな使い方をされるの
か分からないと怯えるよりも、ビデオテ−プがこの世に存
在する事だけでも耐えがたい。もちろん、世の中に出回る
ような事があれば、芸能人としての自分だけでなく、女と
しての自分を破壊されることになるだろう。
 不幸中の幸いだったのは、妊娠を免れていた事ぐらいだ
ろう。それでも、精液を放たれてから、ずっと心の中に恐
怖を抱えていた葉子には心の救いの一つにはなった。

 琴子はあの日からずっと学校に来なかった。それどころ
か、あの時から家に帰ってこないというのだ。両親からの
捜索願いが出され、警察も動いた。親友である葉子も警察
官の質問を受けたが、何も知らないと答えた。それしか答
えようがなかった。あの日、葉子と琴子が一緒に帰ってい
た事を知っている人間がいなかったため、それ以上、事情
を聞かれる事はなかった。
 琴子の事を考えると、胸を締め付けれられる。自分が受
けた陵辱を考えれば、琴子が無事だとは思えない。色白で
細身の琴子は、男たちの加虐心の格好の的になるだろう。
 とにかく、生きて帰って来てくれれば・・・それだけを
願った。
 しかし、琴子の行方は分からないまま、無情にも月日は
過ぎていってしまつた。

 心の平穏を失ったままに数ヶ月が過ぎ、いつのまにか、
一年が過ぎていた。
 永遠に続くのかと思われた苦悩の日々も、仕事が忙しく
なるにつれて、心の痛みも薄れるような気がしてきた。
 忘れないと・・・あれは、事故のようなもの・・・
 忙しい毎日が、余計な事を考える暇を無くしてくれる。
心地よい疲れが深い眠りを導き、悪い夢を見ることも少な
くなった。
 心の中に漂っていた黒い雲のような感情が、時間の経過
に合わせて少しづつ、着実に晴れていくのを感じた。
 負った傷は完全に癒えるはずもない。心身の深い傷跡は
くっきりと残っている。
 しかし、その痛みに耐えるだけの免疫力を身につけ、そ
の苦しさを飲み込むだけの心の強さが養われていった。
 ようやく、男たちの視線を正面から受けても、心の底か
ら笑顔が見せられるようになれた。
 「あの日」を忘れ、以前の自分に戻れる気がしていた。

 しかし、「あの日」の呪縛は、そんなに簡単に葉子を手
放してはくれなかった。

 その奇妙な郵便物が届いたのは、いよいよ中学最後の新
学期を目前とした、とある日曜日の午後だった。
 何気なく郵便受けを覗いた葉子は、得体の知れない固い
感触の大型封筒を手にして首を傾げた。
 日曜日には郵便配達はないはずだから、誰かが直接投函
したものだろう。ファンからの贈り物かも知れない。自宅
の住所は公表していないが、そんなものはいくらでも調べ
られる。実際、通学途中にカメラ小僧らしき人影に隠し撮
りをされたことが何度もあった。
 封筒を引っ繰り返してみても、差出人の名前はどこにも
書かれていない。イタズラや危険物の可能性もあるから、
不用意に差出人不明の郵便物は開けないように、と事務所
からも言われている。妙に重みのある封筒が不気味に思え
てきて、マネ−ジャ−に連絡しようかとも思った。
 しかし、なぜだか分からないが、葉子は封筒を抱えて、
そのまま自分の部屋に戻った。何か予感が働いたとしか、
説明のしようがない。
 封筒の口を破り、机の上で逆さにする。
 封筒から飛び出し、机の上に音をたてて落ちたのは一本
のビデオテ−プだった。白いラベルに「K」とだけ手書き
で記されている以外には、何の変哲もない普通のテ−プの
ようだ。
 さらに封筒を振ると、数枚の写真が静かに舞い落ちた。
その一枚を手にとった葉子は、思わず眉をひそめる。
 まだ女の身体に成りきれていないような少女が、全裸で
四つん這いになり、その股間に背後から男が肉棒を突き入
れている。鮮明なカラ−写真で、乱れる黒髪の一本一本ま
でが判るほどだ。
 何で、こんな物が自分の所に来たのか分からず、葉子は
困惑した。汚いものを扱うように、写真を机の上に投げ捨
てる。
 イタズラ?・・・ふざけんなよ! 
 残りの写真と一緒にゴミ箱に捨てようとした手が、途中
で止まる。
 ・・・まさか・・・
 血の気がひいた顔を強張らせ、葉子はもう一度写真を見
た。写っている少女の顔に注意を向ける。
 違う・・・自分じゃなかった・・・
 しかし・・・これは・・・
 葉子は激しい衝撃に、思わずよろめいた。
 琴子?
 まさか・・・いや、間違いない・・・琴子だ。
 前髪が垂れ下がって顔の上半分を覆っているが、美しい
眉根を寄せて苦悶の表情を浮かべている四つん這いの少女
は、あの日から行方不明になってる琴子に違いなかった。
 あまりのショックに言葉も出なかった。
 ビデオのラベルに書かれた「K」・・・
 琴子の「K」・・・?

 家族が寝静まった夜中、電気の消えた居間のテレビの前
に座る葉子の姿があった。
 ビデオデッキに問題のビデオを挿入したものの、再生ボ
タンを押すことができずにいた。
 見たくない・・・
 でも・・・琴子がどうなったのかを知るには・・・
 ああっ、イヤッ・・・
 いくつもの感情が渦巻き、何人もの自分が心の中で言い
争っている。
 不安と恐怖を押し殺し、ためらいながらもビデオのリモ
コンを持った葉子は、自分の激しい鼓動の音を感じながら
しっかりと「再生」を押した。

 数秒間の砂嵐の後、琴子の横顔がアップで映った。少し
うつ向き、垂れ下がった前髪が目元を隠しているが、間違
いない。あの日、連れ去られた時のままの琴子の姿がそこ
にあった。眠っているのか、気を失っているのか、下を向
いたまま、まったく動かない様子だ。
 綺麗にブラッシングされた艶やかな黒髪をうなじの所で
蝶の形をした髪留めでまとめ、肩口へと垂らしている。卵
型の顔の中心を一直線に高い鼻筋が通り、小さいながらも
肉厚の唇は少し上向き寡言に閉ざされている。美しい弓型
を描く眉の下には、墨で線を引いたかのように閉じた一重
瞼が、意志の強さを感じさせる。ア−モンド型の目の大き
な瞳は、いつも葉子に微笑みかけてくれていた。上品な日
本人形のような美貌は、同級生の中でも人気があったもの
だった。
 すぐに赤らむ頬も、陶器のように滑らかな肌の額も、あ
の日の琴子だった。
 画面がゆっくりと引き始め、琴子の上半身全体を映すよ
うになる。それにつれ、周りの状況も画面に入ってきた。
 どうやら、車の中のようだ。ワゴン車かミニバスのよう
な車の座席に、力無く身を沈めている。窓にはカ−テンが
ひかれていて、画面を見る限りでは、外の様子は分からな
い。あの日、工事現場から連れ去られた直後だとすれば夕
方のはずだが、カ−テンの隙間から光が差し込む様子もな
い。多少の時間経過があって、夜になっているのかも知れ
ない。

 同じ頃、自分は・・・
 あっ・・・イヤッ・・・

 琴子の顔に影がさしたかと思うと、突然、画面の下半分
に金髪の頭が大写しになった。金髪が琴子の方へと移動す
るにつれて、頭の主の姿が画面に映っていく。
 まだ若い男で、派手な金髪に似合わず、地味な紺色のス
−ツを上下きっちりと着こなしている。優男風の容貌だが
切れ長の目だけが冷たく、尋常ではない者の印象を見る者
に与えた。
 金髪男が琴子の座る座席の横に手を伸ばし、何やら操作
すると、ゆっくりと座席の背が後ろに倒れていった。背後
には邪魔するものもなく、座席は平行になるまで倒れ、琴
子は仰向けに寝かされる形となる。
 金髪男が口を開き、カメラに向かって何を言った。

 音声が出ていないことに気づき、葉子はテレビの音声の
ボリュ−ムを少しづつ上げていった。
 しかし、音量を最大にしても、画面からは何の音も聞こ
えてこない。どうやら、もともと音声が入れられていない
ようだ。
 それだけに、画面からは冷たく、不気味な印象を受ける
のだ。

 カメラが移動して、仰向けに横たわる琴子を上から捕ら
え始めた。座席から力無く下ろされた脚からアップで映し
ていき、横たわる身体をナメるようにじっくりと上がって
いく。幼児のように小さい足に履かれた茶色の革靴。シワ
一つなくスラリと伸びる紺色のハイソックス。華奢な脚の
膝下までを覆い隠す灰色のプリ−ツスカ−トは乱暴に連れ
去られた時に乱れたのか、多少のシワはあるものの、襞の
一本一本がしっかりと直線を描いていて、琴子の几帳面な
性格を思わせた。淡い水色のブラウスに包まれたスレンダ
−な胸元は、深い呼吸で規則的に上下動していて、首元の
赤いリボンがそれに合わせて揺れる。軽く唇を開き、瞼を
閉じたままの琴子は周りの状況にも反応せず、平和そうに
眠り続けているようだった。
 画面が再び琴子の足元を映すと、金髪男が狭い車内を中
腰になって移動しようとしているところだった。天井に頭
をぶつけないようにしながら、琴子の下半身の前へと回り
込む。
 カメラの前に金髪男がしゃがみ込む形となり、画面は金
髪男の肩越しに、琴子のスカ−トの裾が揺れる膝元へと寄
っていく。
 金髪男の両腕が、琴子のスカ−トの裾から中へと差し込
まれる。ス−ツの肘までが灰色のプリ−ツスカ−トの中に
隠れ、モゾモゾと何やら蠢いた。
 突然、金髪男が立ち上がり、画面が男の背中で遮られて
しまった。慌てて、カメラは横に移動して、今度は金髪男
の脇腹付近で画面を固定して、改めて撮影を続ける。
 画面が安定すると、金髪男の両腕がゆっくりとスカ−ト
から引き抜かれていくところだった。スカ−トの裾から現
れた金髪男の両手には、水色と白の布が握られているのが
見える。琴子が穿いていたブルマ−とパンティを一緒に引
き下ろしたのだ。そのまま足首から抜き取った金髪男は、
悪趣味にもカメラの前で戦利品を広げて見せた。ブルマ−
の中で小さく丸まっているパンティ−を引っぱり出して、
両手で持って引き伸ばしたり縮めたりして弄ぶ。
 画面が妙に揺れるのは撮影者が興奮しているせいだろう
か。落ち着かない様子で小刻みに画面が縦横にブレる。
 金髪男がイヤらしい笑みを浮かべ、撮影者を指さして何
かを言うと、画面が何度も上下した。撮影しているのを忘
れたようで、突然、画面が下を向き、車内の床と革靴を映
してしまう。慌てた様子で画面が上に戻ると、苦笑した金
髪男がカメラの方へ手を差し伸べていた。
 そこで一度画面が途切れ、砂嵐になる。
 画面が切り替わると、体格のいいスキンヘッドの男が映
っている。位置関係からみると、この男が先程までの撮影
者のようだ。今度は金髪男が交代して撮影しているのだろ
う。
 男の手元を見ると、琴子から剥ぎ取ったブルマ−を握っ
ている。スキンヘッドはその手を顔の近くまで持っていく
と、おもむろに、眉の無い岩石のような顔面を水色の布地
へと埋めたではないか。飢えた犬が長い時間待たされた餌
を貪るように、大きな手で握り締めてクシャクシャになっ
たブルマ−に鼻先を激しく擦り付け、狂ったように何度も
顔を上下左右に振り回した。引き千切らんばかりの勢いで
小さな布をこねくり回し、雑巾がけするように何度も顔を
撫で回す。執拗に臭いを嗅ぎ回したかと思うと、大きな口
で噛み付いたりもする。くわえられ、しゃぶられ、ナメ回
されたブルマ−の尻の部分は唾液に濡れ、鮮やかな水色を
した他の部分とは明らかに変色していく。

 何・・・何なの・・・
 スキンヘツドの異常なまでの行為に、画面を見ている葉
子の背筋に鳥肌がたった。無音で繰り広げられているのが
余計に不気味に感じる。

 ようやく顔からブルマ−を離したスキンヘッドは、だら
しなく口を半開きにして幸せそうに微笑んでいた。唾液で
濡れた唇の間から汚い歯を剥き出しにして、何度も大きく
うなづく。
 カメラが下を向き、スキンヘッド男の股間を映すと、焦
りと興奮に震える手が、作業ズボンのファスナ−を引き下
ろそうとしている。もどかしい程に不器用に開かれたファ
スナ−の中に手を突っ込み、己の浅黒い肉棒を引っ張り出
した。
 既に膨張しきっている肉棒は、男の体格から予想される
程の大きさはないが、十分に太さと長さを誇っている。

 あっ・・・
 男の野太い肉棒が画面に映し出された瞬間、葉子の全身
は凍り付いた。唇は震え、背筋は突っ張り、肩口には電流
が走ったような痺れが走る。手は極度に強張り、持ってい
たリモコンは床へと落下した。
 忘れていた、あの時間・・・
 自分を貫いた・・・汚らわしき肉の槍・・・
 秘部を襲う激痛・・・全身を駆け巡った苦悶・・・
 精液を放たれた子宮の痺れ・・・
 脳の奥底に眠らせたはずの・・・黒い記憶・・・

 股を広げて楽な姿勢をとったスキンヘッド男は、腰のゴ
ムの部分から両手を入れて広げたブルマ−を自分の肉棒に
被せるように当てがった。さっきまで琴子の股間を覆って
いた部分にヌラヌラと湿った亀頭を押し当て、肉茎全体に
ブルマ−を巻き付ける。顔は映っていないが、おそらくブ
ルマ−生地の感触に敏感な部分を包まれ、至福の笑みを浮
かべているのだろう。水色の布を纏った肉塊を力強く鷲掴
みにすると、激しくしごき始めた。
 男のオナニ−など映していられるか、とばかりに画面は
反転して、眠り続ける琴子の姿を映す。
 画面の横から金髪男の手が伸び、琴子の顔に触れた。男
にしては細く長い指が、琴子の顎の滑らかなラインをなぞ
り、ほんのりと紅潮した頬を撫で、幅の狭い鼻筋を伝い、
額の上にこぼれる前髪をかき上げる。
 男の指の動きにも全く反応を見せずに、琴子はまるで死
人のように眠り続けていた。おそらく、薬か何かを使われ
ているのだろう。
 カメラが琴子の胸元に寄り、金髪男の手が首元に巻かれ
た赤いリボンを摘み上げる。男が引っ張ると結び目がスル
スルと解け、そのままブラウスの衿から抜き取られていっ
た。
 男の指がブラウスの一番上のボタンを摘み、器用に片手
で外す。続いて二番目のボタンも外すと、ブラウスの胸元
がほんの少しだけ開き、中に隠された柔肌が垣間見える。
 きめ細かい肌は日の光を浴びた事がないのでは、と思わ
せる程に白く透き通り、清潔感を感じさせた。男が指で押
すと、押された部分だけが赤い跡になり、指を離すと再び
白さを取り戻す。

 肉棒のショックから立ち直りつつある葉子だが、画面を
直視するのは苦痛になっていた。
 もう・・・もう駄目・・・止めよう・・・
 そう思うのだが、なぜか床に転がるリモコンを拾って、
「停止」を押そうとはしなかった。
 画面に拒否反応を起こす意志がある一方、頭の片隅には
もう一人の自分がいて、それを押し止めているのだ。恐怖
と嫌悪と闘いながら、葉子の目は画面から離すことができ
ず、全身は金縛りのように微動すらできない状態になって
いた。

 カメラが急激に反転し、画面に再びスキンヘッドの男が
映った。乱暴な扱いを受け、シワシワにされてしまったブ
ルマ−が片手に握られているのが分かる。
 男がカメラの前に掲げたブルマ−は、一部がひどく濡れ
て変色していた。その部分を大写しにすると、白濁した液
体の滴が一筋、糸をひいて垂れ落ちる。どうやら、行為を
終えたようだ。
 一度射精してしまえば興味が無くなってしまうのか、あ
れほどに執着していたブルマ−を投げ捨てると、スキンヘ
ッドはカメラの方へ手を伸ばした。
 撮影を交代してもらい、再び金髪男が画面に映った。
 金髪男は自分のベルトを外し、手早くスラックスを下ろ
した。股間の盛り上がりが目立つ黒いビキニパンツも続け
て脱ぐと、妙に色白な肉棒が砲身を揺らして飛び出す。
 身を屈めながら琴子が横たわる座席を跨いだ男は、琴子
の胸の上に腰を下ろした。何も知らずに無垢な表情で眠る
琴子の顔の前で、充血して反り返った肉棒が揺れる。

 イヤッ・・・駄目っ・・・やめてっ・・・
 ついに本格的な陵辱が始まる事を感じ、葉子は両手で顔
を覆って床に泣き崩れた。震える自分の肩を固く抱き、身
を丸めて、次から次へと出てくる涙で頬を濡らす。
 あの日、自分の身体の上に馬乗りになった男を、下から
見上げていた時の恐怖と屈辱・・・。
 この数ヶ月、ずっと心の中で押し止めていられた封印が
ついに解かれてしまった。貯めていたものが一気に吹き出
し、全身を侵食していく。
 ああっ・・・ああっ!
 叫び出してしまいそうになるのを、奥歯を食いしばって
必死に堪えた。頬が引きつり、鼻の奥に鈍痛が走る。
 琴子・・・琴子!
 親友だった少女を思う気持ちが、涙に曇る葉子の目を、
再び画面に向けさせる。
 しかし、葉子には何もできない。手を差し伸べて助けて
あげる事もできない。声をかける事もできない。
 琴子が男たちに汚されていく姿を、画面の前で観ること
しかできないのだ。

 男の顔が琴子の顔を覆い隠し、長めの金髪が琴子の黒髪
の上に幾筋も垂れる。血の気を失って少し青白い琴子の上
唇に吸い付くと、軽く噛みつくようにして引っ張り、剥き
上げた。歯並びのいい白い歯と桃色の歯茎が露わにされ、
差し込まれた男の舌がその上をなぞるようにナメていく。
 隙間の開いた琴子の唇の間に男の口が滑り込み、貪るよ
うに吸い付いた。内側の歯と歯茎は依然として閉ざされた
ままのようだが、柔らかそうな唇をまくり上げられ、男の
激しく小刻みに揺れる舌と唇に、琴子の小さな口が侵略さ
れている。押し迫る男の顔に圧迫されて、琴子の鼻や頬は
押し潰され、歪められた。
 少し顔を離した男は自分の口をすぼめると、唾液を垂ら
した。白く泡立つ唾液の筋は琴子の上唇の上に垂れ落ち、
口の中に流れ込んで前歯にまとわり付く流れと、唇の端か
ら顎へと落ちていく流れに分かれる。
 
 あまりにも鮮明に映し出される映像に、葉子の胸は強い
圧迫感を受け、呼吸が苦しくなった。
 ひいっ・・・ひぐっ・・・
 溢れる涙をすすり上げながら、拷問を受けているような
心境で画面を見続ける。

 身体を起こした金髪男は、片手を琴子の額に当て、首の
後ろにもう片手を回して、人工呼吸の要領で、琴子が閉ざ
している唇を開かせた。後ろにのけぞり、喉の奥まで見え
るほどに目一杯開かれた琴子の口の前に、男は裸の尻をズ
ラして腰を寄せた。
 男が葉子の後頭部に片手を回し、もう片手を自分の直立
する肉棒に添えて葉子の顔へと導く。生々しい肉色の亀頭
が顎を滑り、唇に触れても、琴子が目覚める気配はない。
 
 駄目っ・・・やめてっ・・・
 いくら画面に訴えても、男の行為は止められない。
 
 男の肉棒が琴子の口に滑り込まれていった。限界まで開
かれていても、大人の男の肉棒をくわえるには琴子の口は
小さい。肉棒の先端が押し込まれたところで、男が下唇に
指をかけ、顎をさらに押し下げる。腰を浮かせ、角度を垂
直に近付けて、やっと肉棒の半ばまでが琴子の口中に消え
ていった。とはいえ、完全に唇で包み込めた訳ではない。
張り裂けそうに大きく口を開かされ、めくり上がった唇の
間に肉棒が窮屈そうに押し込まれていく様子は、くわえて
いるというよりも噛みついているように見える。
 恐る恐るという感じで、ゆっくりと男の腰が動き始め、
肉棒が出し入れされる。最初は亀頭のくびれ付近をこする
程度に小さな動きだったが、次第に滑りが良くなり、肉棒
が深く飲み込まれるにつれて、肉棒の往復する動きも大き
く深くなっていった。琴子の後頭部を支える男の手にも力
が入り、鷲掴みにされた黒髪が乱れる。
 男の腰の動きに合わせ、琴子の頭も前後、上下に激しく
揺さぶられた。脱力した首は男のなすがままにガクガクと
動き、唇をさらにめくり上げられた端正な顔立ちが歪む。
 男の尻肉がキュッと締められ、腰の動きが速さを増す。
琴子の乱れた髪が踊るように散らばり、その紅潮した頬を
叩いた。男の腰と琴子の頭の動きのリズムは、結末に向け
て高まっていく。唾液にまみれた肉棒は、車内の暗い照明
に反射して、ヌラヌラと妖しい光を放った。
 琴子の唇が辱められる画面は、数分もの間、単調な感じ
で続いた。すっかり滑らかになった肉棒は根元まで飲み込
ませることに成功して、快調なピッチで琴子の口に打ち込
まれていく。 
 撮影者も飽きてきて画面が揺れ動き始めた頃、男の背筋
が急激に伸び上がり、股間が琴子の顔に押し付けられた。
琴子の細い鼻筋を埋めた男の陰毛が小刻みに震え、腰全体
が快感の波に打ち震える。

 出された・・・
 葉子は、まるで自分の身に起きた事のように絶望の吐息
を漏らした。

 肉棒が引き抜かれても、琴子の口は押し開かれた形から
戻らなかった。大きく開かれた口元に画面が寄ると、赤い
口腔の奥に白い液体が溜まり、舌の根元にまとわり付いて
いるのが見える。意識が戻るまでは飲み込む事も吐き出す
事もできず、天井を向いて開かれた口の中で、ヌメヌメと
揺れ動きながら留まっている。
 カメラが少し引き、琴子の顔全体が映る。まるで自分の
家のベッドの中で眠っているかのように、純粋無垢な寝顔
を見せている。乱れ、ほつれた髪が座席に垂れ流れている
以外は、陵辱の後とは思えない程に、琴子の表情は平然と
していた。

 画面が突然途切れ、カラ−バ−が現れても、葉子は画面
から目を離すことができないでいた。
 何も考えられなくなっていた。衝撃が強すぎ、思考能力
がショ−トしてしまったようだ。

 しかし、葉子にとって一生忘れられなくなる夜は、まだ
終わっていなかった。 
 このビデオにはまだ続きがあったのだ。
 さらなる陵辱の光景が・・・。

(つづく)

 


    目次     

恥辱小説の部屋

動画 アダルト動画 ライブチャット