『サイレント・ラプソディ』
        第一話        

第一話

 気持ちよさそうに寝てる・・・。
 美津谷葉子は、パジャマからTシャツとショートパンツ
に着替えながら、隣のベッドを覗き込んで微笑んだ。
 昨夜、遅くまで話し込んでいたから疲れたのだろう。
宮路真緒はグッスリと眠りに浸っているようだった。
 グッスリはグッドスリープの略なのかも、と誰かが言っ
ていたっけ。嘘臭い話だけど。
 まあ、あんなに遅くに眠りについたのに、こんなに早く
に目覚める方がおかしいのかもね。
 葉子は、真緒の眠りを妨げないように、静かに笑った。
 
 葉子と真緒は同い年で、事務所も同じ為、よく撮影など
の仕事で一緒になった。お互いに性格が合うらしく、話し
ていても気を使わないですむので、すっかり仲良しになっ
ていた。この島に着いてからも、どこに行くのにも一緒だ
ったし、体型も似ているから洋服や水着を交換して着たり
もした。
 似たところの多い二人だが、お互い、自分に無い何かを
相手に求めるようなところが、二人の関係にはある。
 そんな二人の表情が与える印象は少し異なる。 
 葉子はどちらかというと幼さを残した顔だったが、真緒
は目鼻立ちのくっきりとした大人びた顔だ。
 二人とも負けず劣らずの美少女である。

 昨夜は理想の男性像や将来の話に花が咲いた。この年頃
の女の子が話す事など同じようなものだ。芸能人だからと
いって、特別なことはない。
 話は盛り上がったが、結局、結論が出ないままに眠りに
入り込んでしまった。
 南国の朝日は綺麗だから、明日の朝は見に行こうね。
 そう言っていたのは真緒だったはずだが、すっかり熟睡
してしまっている。葉子は忍び足でバスルームへと入り、
歯を磨き、髪を整えると、一人で部屋を抜け出した。
 軽く化粧もした方がいいかな、とは思ったが、どうせ、
こんな時間にこんな島で出会う人もいないだろう。
 
 小屋を出ると、すぐに海岸に出られる。
 この島唯一の宿泊施設といえば、このさびれた小屋がい
くつかあるだけの、名前ばかりの宿泊村だった。老いた管
理人が一人いるだけのここは、電気は通り、シャワーもト
イレも使えるが、炊事も洗濯もセルフサービスで、海に近
いことぐらいが取り柄である。
 葉子と真緒が比較的きれいな1つの小屋を使い、多少ボ
ロがきている残りの小屋にマネージャー、カメラマン、そ
の助手が、それぞれ床を構えている。
 住む者もないこの島には一軒の店もなく、週に一度、物
資を運ぶボートがやって来る。
 葉子たちはこのボートに乗って島を訪れ、そして明日、
再びボートに乗って島を去る。
 
 東の空は白く染まりつつあるが、まだ日の出は訪れては
いない。早朝の薄暗い砂浜に人影はなく、押し寄せる波の
音だけが沈黙を破っている。
 見える限りに延々と続く砂浜に下り、深呼吸をすると、
潮風の香りが葉子の鼻の奥まで染み入った。
 「気持ちいいーっ!」
 ぼんやりと明けつつある水平線の彼方を眺め、葉子は
思わず叫んでいた。
 この島も、明日にはお別れだ。自分のシーンは終わり、
今日、真緒と二人でのショットを撮ってしまえば、今回の
撮影は終了する。
 日本に帰国すれば、また忙しい日々に戻る。こんな島に
来る事も、当分はないだろう。
 それを考えれば、今は十分に羽を伸ばしていたかった。
 波打ち際に沿って砂浜を歩く葉子は、浮き浮きした高揚
感を感じていた。早起きした今日は、何か素晴らしい事が
起こりそうな予感がする。そんな期待に胸を大きく膨らま
せてた。

 葉子・・・ああ・・・。
 武藤は、岩場の洞窟の中、声なき声で呻いていた。
 昨日、砂浜で葉子を見かけた時に点火した心の蒼炎は、
まだ鎮火の様子をみせない。夜になり、朝になっても、
全身を熱く火照らせている。
 そんな状態で眠れるはずもなく、ここで一晩中、己の
熱くたぎるペニスを苛め続けた。
 しかし、精液が尽きるほどの時間を経ても、心は落ち着
かず、肉棒は疲れることを知らなかった。
 もう、無理だ。どれだけ自分の手で慰めても、この想い
は遂げる事ができない!
 葉子が島にいる間に、何とかしなくては。
 そう想像力を巡らすと、またも股間は痛い程に膨張して
いくのだ。
 もう何度目か忘れてしまったが、再び、固き肉棒を握り
締め、目をつぶった。
 洞窟の入り口に腰掛け、妄想への扉をシコシコと開き始
める。

 サンダルを脱ぎ、手に持った葉子は、波打ち際の濡れた
砂を素足で踏みしめた。
 「あっ!」
 冷たさに思わず飛び跳ねる。
 太陽が顔を出し始め、暗く沈んでいた海も、青く澄んだ
色を取り戻してきた。早朝の涼しい風が、葉子の黒髪を
揺らす。
 真緒も連れてくればよかったかな。起こすのも悪いと思
い、声をかけなかったけど、この風に当たれば気持ちいい
朝になったのに。
 いつのまにか、小屋からは遠く離れてしまっていた。
辺りの風景がそれほど変わらないので、気づかずに歩きす
ぎたようだ。
 そろそろ、マネージャーか誰かが起きてきて、葉子の姿
が見えないのを心配するかもしれない。
 少し残念な気持ちもするけど、帰らなきゃ。
 葉子は砂浜に残った自分の足跡を辿るように、波打ち際
を引き返していった。
 「・・・?」
 不意に葉子は立ち止まり、少し離れた岩場の方に目を向
けた。岩壁に開いた洞窟の入り口に、人影が見えた気がし
たのだ。
 葉子たちは、この島には今、自分たち以外はいないと
聞かされていた。他の人は誰もいないはずなのに・・・。
 住んでいる者がいるなんて思いもしない。
 人じゃなくて、何か、猿みたいな動物かな。服も着てな
いみたいだし。
 好奇心というわけではないが、興味はあった。早朝の海
風に当たり、気持ちが解放的になっていたかも知れない。
 葉子は進路を変え、岩場の方へ近づいていった。

 上った朝日の光が、洞窟の中まで伸びてきた。
 くそっ、気が散る・・・。
 武藤の寝不足に弱った目が、眩しさに細められる。岩に
反射した光が、武藤が妄想に集中するのを妨げた。
 仕方なく立ち上がると、光の入らない奥へと移動した。

 葉子が洞窟の入り口に近づいた時、先程の人影らしきも
のは消えていた。
 見間違えかなぁ・・・。
 葉子は、無造作に洞窟の壁に手をかけ、中へと入り込ん
でいった。
 狭い岩道を腰を屈めながら進むと、奥の方で何かが蠢く
のを空気の流れに感じる。
 何、この匂い・・・。
 魚が腐ったような、すえた異臭が漂っていた。
 怖い・・・帰ろう・・・。
 そう思い、葉子が入り口の方を振り向こうとした時、
足元の岩が削れ、音をたてた。
 「キャッ・・・」
 葉子の身体が泳ぎ、両手は空しく空を掻いた。
 ドサッ!

 人の気配を感じ、武藤は目を開いた。オナニーに集中す
るあまり、全く注意していなかった。
 まあ、オナニーなど誰に見られたって構うものか。むし
ろ、無礼な侵入者に、俺のモノを見せつけてやる。
 武藤はフィニッシュに向け、手の動きを速くした。

 足元のバランスを失い、葉子は膝から前に倒れこんだ。
 膝を打つ強烈な痛みに声も出なかった葉子は、前を向い
た瞬間、我が目を疑った。
 暗闇に慣れ、目に移るものに焦点が合った時。
 すぐ目の前に若い男が全裸で寝そべり、その股間に直立
する醜悪な男性器を、己の手でしごいていたのである。
 葉子には当然、行為の意味は解った。
 飛び退こうとしたが、足がすくんでしまい、動けない。

 武藤は突然足元に倒れてきた人影に驚き、険しい視線で
睨みつけた。
 荒い息をする武藤の視線が、薄暗闇の中、怯えたような
少女の視線とぶつかった。
 ・・・葉子?
 「キャァァァッ!」
 恐怖に駆られた葉子の目が大きく見開かれ、金属的な
悲鳴がほとばしった。
 その声を引き金に、武藤の下半身に絶頂感が駆け巡る。
 
 ああっっ!
 声なき声で武藤は歓喜の呻きをあげた。 
 次の瞬間、武藤の肉棒が強く弾けた。

 男の股間から勢いよく飛び出した何かは、冷めた空間を
裂き、白い放物線を描いた。反射的に目を閉じた葉子の眉
間に着弾すると、その愛らしき顔中に飛び散った。鼻の上
に垂れ流れていく生暖かい大きな流れは、鼻筋に合わせて
いくつかの細い支流となり、鼻の穴や口元、頬に流れ込ん
でいった。
 先程感じた異臭が何倍もの強さで鼻を襲い、鉄を噛むよ
うな鈍い苦味を舌先に感じる。

 葉子・・・これはまた幻か?
 武藤の目の前に、精液に顔を汚された葉子がいた。
 葉子が瞼を開いた。精液の粘りが、上瞼と下瞼の間に糸
をひく。
 「・・・は、はぁっ・・・ああっ!」
 葉子は低い声で意味不明な叫びをあげると、跳ね起きた

 「ああああっ!」
 洞窟の入り口へと走り出すと、その後ろ姿はあっという
間に砂浜の方へ消えていった。
 残された武藤としては、ただ呆然と座り込んでいるしか
なかった。

 「どうしたの、葉子ちゃん!?」
 歯ブラシをくわえた真緒は、帰ってきたと思った途端に
バスルームに飛び込んでいった葉子に呼びかけた。だが、
中から鍵をかけられて固く閉ざされたドアの中からは水が
勢いよく流される音が聞こえるだけで、葉子の返事は帰っ
てこない。
 真緒が目覚めた時、すでに隣のベッドに葉子の姿はなか
った。散歩にでも行ったのかと思い、歯を磨き出したとこ
ろに、葉子が飛び込んできたのだ。葉子は真緒をバスルー
ムから押し出すと、中に閉じ篭ってしまった。
 「大丈夫?マネージャー、呼んでこようか?」
 突然、バスルームの扉が開けられ、頭からビショ濡れに
なった葉子が出てきた。Tシャツの肩口までが水を滴らせ
ている。
 唖然とする真緒の前を通り過ぎ、部屋の中に干してあっ
たバスタオルを取った。
 「だ、大丈夫?」
 「えっ、あっ、うん・・・別に何でも・・・」
 何でもないようには見えないが、葉子はそれ以上の言葉
を拒絶するように、バスタオルで髪を拭いている。
 「変だよ、顔色も真っ青だし」
 「・・・潮風に当たって、風邪ひいたのかもしれない」
 葉子は半乾きの髪のまま、ベッドに潜り込んだ。
 「ごめん、しばらく横になる。朝ご飯の時に声かけて」
 「あ、うん・・・分かった」
 真緒は再びバスルームの洗面台に向かった。
 どう考えても変よ・・・。風邪をひいたという言葉と、
あんなに急いで頭を洗い出したという行動は結び付かない
ではないか。
 何かがあったのだ、という確信はあったが、何があった
のかは想像できない。 
 撮影に影響がなければいいけど・・・。

 葉子は布団の中で、震える体を抱き締めていた。
 真緒は、自分の異変に気づいてしまっただろうか。
 洞窟から飛び出した後、海水で何度も顔を洗った。何度
洗っても、汚れと匂いは落ちる気がしなかった。頭の中が
真っ白になり、何も考えられない状態で、狂ったように顔
を洗い続けた。 
 臭い!臭い!汚い! 
 部屋に戻り、改めて暖かいシャワーを頭に浴びると、
少しは落ち着いた。
 あの洞窟で見た事を真緒に話そうと喉元まで出かかった
が、言えそうもない。
 ただ男のオナニーを見ただけなら、エッチな笑い話にで
きたのだが、顔面に受けた恥辱までは語る言葉がない。
 マネージャーにも言えない。あの光景を説明するくらい
なら、自分の中にしまっておくほうがいい。
 とにかく、落ち着こう。今日も仕事があるんだから。
 それにしても、許せない、あの男・・・。
 駄目よ、考えちゃ!忘れるのよ、さっきの事は。
 膝を抱え、必死で震えが止まるのを待った。

 しばらくして起き上がった葉子は、平常を取り戻してい
るように見えて、真緒は少し安心した。
 何があったのかは聞かずにおこう。変に問いただして、
機嫌を損ねられても困る。友達だからね。

 正直、まだ葉子はショックを引きづっていた。
 でも、真緒に心配させたくないから・・・。
 頑張って、笑顔を作った。
 「今日、朝ご飯、何だろ?」

 その頃、武藤は森の中を歩いていた。
 どこに向かうわけでもなく、呆然と歩いていたら、ここ
に来てしまった。
 やはり、俺と葉子は、何か運命が・・・。
 そう考えると、背筋に喜びの電撃が走った。
 いやっほぉーっ!
 天を仰ぎ、両手を大きく突き上げ、至福のガッツポーズ
をした。
 天よ、俺の望みを叶えたまえ!
 その声なき祈りに応えたのか、快晴の空模様は急転しつ
つあった。太陽を黒雲が隠し覆い、強まる風が森の樹木を
揺らす。
 武藤の前髪が風に揺らぎ、露わになった額に一粒の水滴
が落ちた。
 雨・・・か?
 そう思った途端に、轟音をたてて雨が降り注いだ。
 全身を雨に打たれ、体温が徐々に奪われていくのを感じ
ながら、武藤はそこで空を仰ぎ続けていた。
 葉子、必ず迎えにいくから・・・。

(つづく)

 


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