『サイレント・ラプソディ』
      <プロローグ>      

<プロローグ>

 人生には、いろいろな出来事がある。予想できる事も、
予定外な事も。
 その女を砂浜で見かけた時、武藤は我が目を疑った。
 この再会は、ただの偶然なのか、何かの必然なのか。
 もしかしたら、あの子の事を考え続けた為に、幻を見て
いるのではないか、とも疑った。
 しかし、どうやら、見間違えではないらしい。
 黒いビキニをまとい、白い砂浜に横たわっている女。
 カメラマンの注文に応えてポーズを変え、強い日差しに
健康的な肌を輝かせている女。
 こぼれんばかりの胸の谷間、豊満なヒップ、白く滑らか
そうな肌。
 妄想の中で何度も陵辱してきた肉体は、確かにそこに存
在していた。
 葉子・・・。
 
 あれは、ほんの一ヶ月前の事だった。

 休日の都内を走るバスの車内は混んでいた。繁華街が終
点なので、若者から老人まで多種多様な人々が乗り合わせ
ている。
 大胆な奴だな。
 武藤は、自分の前に立っている男の不敵な行動に驚きを
隠せなかった。
 スーツ姿の会社員らしき若い男が、吊り革に掴まって立
っている女性に痴漢行為をしているのだ。肩まで伸びた柔
らかそうな黒髪、目鼻立ちの整った、若く可愛い女性。そ
の肉感的なヒップに背後から股間を押し付け、腰を微妙に
揺らしている。その手は、女性のスカートから伸びた太股
へと当てられている。
 女性は露骨に嫌そうな顔をしているが、声を出す機会を
失っているようだ。混雑の中、少しでも身体を逃がそうと
しているものの、男はピタリと密着して付いていく。
 やがて、バスが停留所に近づき、誰かが停車ポタンを押
した。ピーンというその音に反応したかのように、女性は
意を決したらしく、背後を振り向こうとしたが、その気配
を感じた痴漢は、素早く身体を横にずらした。
 その時、バスが停留所に停車した。痴漢に気をとられ、
前方にバランスを崩した武藤は、女性の背中に寄りかかっ
てしまった。
 「キャッ!この人、痴漢です!」
 間髪入れず、女性は武藤の手を掴み、高々と持ち上げて
叫んだ。
 詰める隙間などないように感じた混雑が、武藤たちの周
りだけ開いた。
 違う、俺じゃない・・・。
 その隙に、痴漢はバスを降りていってしまった。
 武藤は女性に無実を訴えようとしたが、その頬に女性の
平手が飛んだ。
 「痴漢!ふざけんなよ、変態!」
 女性は甲高い声を張り上げると、掴んだ武藤の手の甲に
爪をたてた。
 唖然と立ち尽くす武藤だが、横から助け舟が入った。
 「その人じゃないよ」
 優先席に座っていた老婆が言うと、周りの乗客もうなづ
いた。他にも痴漢を見ていた乗客がいたのだ。見ていたの
に皆、知らない素振りをしていたのか。
 「えっ、嘘っ・・・」
 女性はあっさりと武藤の手を放したが、特に謝ろうとも
しない。
 気まずい空気に包まれながら、武藤は自分の降りる停留
所までの時間を、恥ずかしさに耐えて過ごす羽目になって
しまった。

 停留所で降りた武藤は、飛び出すように降りると、外の
空気を吸って安心できた。
 まったく、いい迷惑だぜ・・・。久しぶりに日本に帰っ
てきたというのに、こんな目にあうなんて。
 ふと見ると、あの女性も同じ停留所で降りていた。先程
の事などなかったかのように、携帯電話に向かって笑顔で
話している。
 やはり、一言でもいいから詫びて欲しかった。
 武藤は女性の側に歩み寄り、じっと顔を睨みつけた。
 女性は武藤の視線を遮るように背を向けると、そのまま
電話を続けた。しかし、武藤が立ち去らないとみると、電
話を終え、武藤の方に振り向いた。
 「何ですか!」
 てっきり謝ってくれるものかと思っていた武藤は、女性
の剣幕に怯んだ。謝るどころか、睨み返してきたのだ。
 「しつこいなぁ。もういいでしょ!」
 武藤に罵声を浴びせると、女性は足早に歩み去ってしま
った。
 武藤はその背中を睨み続けたが、追いかけようとは思わ
なかった。ああいう女は苦手だし、口喧嘩になったら勝て
る訳がない。
 武藤は口がきけないのだから。

 武藤が声を失ったのは、5年前の夏だった。ある日、突
然出なくなったのだ。
 医師は精神的な原因だと言った。何か、強いショックを
受け、心が喋る事を拒否しているのだと。
 思い当たることはあった。声を失う前日、武藤は恋人に
罵倒されていた。原因は、武藤の性的指向にある。それを
拒絶した恋人と口論となり、人格を否定されるような言葉
を浴びた。
 声を取り戻す為、自分なりに努力はしたし、色々なカウ
ンセリングも受けた。
 しかし、声は戻っていない。
 もともと引っ込み思案だった武藤の性格は、さらに内向
的になっていった。周りとの人間関係を拒絶するようにな
り、恋人に去られ、友人を失い、仕事も辞めてしまった。
 なぜ、俺はこんなになってしまったのだろうか。
 現在、武藤は南国の島に住んでいる。死んだ両親が遺し
た物を全て売り払い、日々の生活に困らない程度の金は手
に入れてあった。
 島では煩わしい人間関係もなく、自分の事だけを考えて
いればいい。毎朝、庭に飛んでくる鳥を友に、自然を恋人
にした。言葉はなくても、彼らは理解してくれる。
 久しぶりに帰ってきた日本。言葉が溢れる都会。多くの
人がすれちがう道。
 全てが汚れて見えた。

 年下の女に罵倒されたが、不思議に怒りはそれほど強く
は涌いてこなかった。
 むしろ、心の片隅に針が刺さるかのような痛みが襲い、
それが下半身に痺れるような感覚として広がる。
 もどかしい、むずがゆい感覚に手を当てると、なぜか、
武藤の股間は意に反して悠然と勃起していた。
 悦んでいるのか、俺は・・・?

 帰国の目的は、本を買い込むことだった。南国の島での
生活は、何もすることのない時間との闘いだった。唯一の
趣味は、こうして帰国した時に買った本を読む事である。
 文庫本、新書版、雑誌、持ち帰れるだけ買い込んだ。
 雑誌の表紙をみると、前回帰国した時とは随分顔触れが
違う。武藤が知らないような若い女の子たちが笑顔でポー
ズをとっていた。
 雑誌コーナーを物色していた武藤の手が、一冊の雑誌の
上で止まる。
 こいつは・・・。
 その雑誌の表紙で微笑む水着姿の女の子。
 それは、先程、武藤を痴漢呼ばわりした女だった。

 美津谷葉子・・・。
 初めて聞く名前だった。1984年生まれ・・・まだ、
17歳か。さっきは大人びて見えたが、女は分からないも
のだ。
 いくつかの雑誌のグラビアを飾っているのをみる限り、
売れっ子なのだな。ビキニ姿の写真では、グラマラスな身
体とアンバランスな幼さを残した顔で、扇情的な表情を見
せている。
 この身体なら、痴漢が狙いたくなるのも分かる。

 恋におちるのは、魔法か呪いにかかるようなものだ。別
に何とも思っていなかった女の事が、なぜか頭の隅に引っ
かかる。いつのまにか頭から離れなくなっていき、やがて
は、昼も夜も彼女の事を考えてしまうようになる。
 島に戻ってからの武藤がそうだった。
 数日前に初めて知ったアイドルなど、すぐに忘れてしま
うものだと思っていた。実際、他のアイドルについては、
飛行機の中で名前も姿も忘れてしまった。
 忘れられないのは、ただ一人。
 武藤に罵声を浴びせた顔が、なぜか脳裏に焼き付いて離
れなかった。
 葉子・・・葉子。
 
 それから一ヶ月の間、葉子は毎日、武藤の夢の中に現れ
た。夢の中の葉子は従順で、武藤が望む行為を全て受け入
れてくれた。全てを武藤の前にさらけ出してくれた。
 武藤は葉子を思うがままに犯し、いたぶり、汚した。 
 孤独の生活に、楽しみが一つ増えていた。
 久しぶりの幸せを感じていた。

 そんな葉子が、武藤の住む島を訪れている。
 日本人が来るという話は、どこかで耳に挟んでいたが、
まさか、彼女たちだとは。
 どうやら、グラビアか写真集の撮影らしい。水着や衣装
を替え、もう小一時間は砂浜にいるだろうか。葉子は嫌な
顔一つ見せず、笑顔を絶やさない。
 あの笑顔の半分でもいいから、自分に向けてくれたら。
 他にも島がある中、この島を訪れたのは偶然なのか?
 いや、必然だ。毎晩、夢の中で思い続ければ、叶うこと
もあるのだ。
 武藤の頭の中で、誰かが問いかける。
 出会えただけで満足なのか?
 ・・・いや、我慢できない。あの肌に触りたい。優しく
触りたい。強く触りたい。あの白い肌に赤みがさしていく
のを見てみたい。
 あの唇から声が聞きたい。悦びの声が、甘い吐息まじり
の呟きが、苦痛に呻く声が、涙にむせぶ声が聞きたい。
 あの水着に隠された全てが見たい。
 ずっと独りで妄想してきた全てを試したい。
 葉子を犯し、汚し、壊したい。 
 こんなチャンスはもう一生訪れないだろう。

 砂浜に立ち尽くす武藤。その瞳は既に狂気を帯び、その
股間はズボンを突き破らんばかりの力がみなぎっていた。

(つづく)

 


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