『優・スレイブガール』
    自主規制版    
 
プロローグ 国内にある異国

「ねえ優ちゃん、お買い物に行こうよ」
 プールに面したホテルのフロアで、静かに読書をしていた優に、優里亜が声を掛けた。
 二人は某テレビ局の朝の番組で、各曜日を担当するお○ガールの一員であった。今回夏休みスペシャルのロケで、沖縄に来ていたのだ。
 夏休みともあって番組はスペシャルプログラムが組まれていたが、今回は、その中でも一番楽しい沖縄ロケである。
 小中学生の出演者が多いこの番組では、家族同伴でのロケは、言わば休みの少ない彼女達へのプレゼントのようなものだった。
 水曜日担当のお○ガール・あびる優は十五歳。外務省に勤め海外勤務の父を持つ彼女だけは、母親も一時的に赴任先に行っているこの時期、一人でロケに参加していた。
 マネージャー替わりの局のスタッフも同行しているし、何よりも他のメンバーが家族同伴なので、もう中学生の彼女なら大丈夫だと思ったのだ。
 家族旅行のようにはしゃぐ他のメンバー達とは違って、一人寂しくしている優の姿を、両親が沖縄にいる親戚の家に行っていて時間を持て余していた優里亜が見つけて声を掛けたのだった。
 芳賀優里亜十三歳。彼女は木曜担当のお○ガールだ。
「あ、優里亜ちゃん……どうしたの? ご両親は?」
「うん? 今日は一人なんだ……ねえ、遊びに行こうよ。午後の収録までまだ時間あるじゃん……」
 優里亜は優の腕を掴んで、強引に立たせた。学年では一つしか違わないのに、優里亜はまるで子供のようだ。
 普段は曜日ごとに出演が別れているので、同じお○ガールと云えども、それほど親しいわけではなかった。だが、夏休みが始まってからは、特番が続き、共演するようになってから二人は急に親しくなったのだ。
 普段は活発でキャピキャピの女の子の優でも、甘えん坊の優里亜の前では優しいお姉さんになり、大の仲良しになっていた。
「……でも、勝手に出かけちゃ叱られるでしょ?」
 いつも優の前では我が侭放題の優里亜のことだから、また思い付きで言っていると、優は優しく諭した。
「へへ、太田チーフの許可は貰ってるんだ。収録時間までに戻ってくるのならいいって言ってたよ」
 優里亜しては、用意周到に許可を取り付けていることに驚きながらも、念のために優は優里亜と一緒にスタッフに確認を取りに行った。
「ああ、その件なら、優里亜ちゃんのお母さんから聞いているよ。優ちゃんもせっかく沖縄に来たのに、何処にも行っていないんだって?……車の手配もしてるから、優里亜ちゃんと遊んでおいで……」
 太田チーフは笑顔で言った。
 何のことはない、優里亜のお母さんが頼んでくれていたのだ。しかも車の手配までしてもらって……。
 どちらにしても、優は嬉しかった。せっかく沖縄に来てもロケ現場とホテルを往復する毎日に寂しい思いをしていたことは事実だったからだ。
 いそいそと外行きの洋服に着替えて集合場所の駐車場に行くと、そこには優が一番苦手としている先輩のベッキーが、困惑そうな顔をした優里亜と一緒に待っていた。
「あら、優ちゃん。いつも遅いのね……貴女なんか何を着たって一緒でしょ……」
 開口一番、ベッキーはいつもの嫌みを優に言った。
 ベッキーは優に対して敵意があるかのように、初めてあった時から
何故か優にだけは辛く当たるのである。
「あッ……ああ、ごめんなさい……」
 遅刻したわけではないし、仕事の集合ではないのだから、別に謝る必要もないのだが、芸能界の先輩に対してはそう言わざるを得ない。
 そうしている間に、運転手の天田がワゴン車を運転して現われた。
「天田さん、よろしくね。さぁ、早く乗って。出発するわよ……」
 いつのまにかベッキーが指揮をとって、三人を載せたワゴンはホテルを後にした。
 繁華街に到着しても、結局はベッキーの買い物に付き合わされる。特に何かを買いたかったわけではないが、仲良しの二人でウインドーショッピングを楽しみたかったのだ。それがベッキーの荷物持ちになってしまった。
「ねえ、貴方達。沖縄に国境があるのを知っている?」
 買い物が一段落したとき、ベッキーが優と優里亜に訪ねた。
「国境って、隣の国との境目のことですか?」
 優里亜が不思議そうに言うと、優も、
「えッ、だって日本は島国だし……」
 とベッキーの質問を不思議がった。
「ふ〜ん、やっぱり知らないんだ……ねえ、天田さん、キャンプ瑞慶覧の近くまで行ってくれる」
 ベッキーは得意そうな笑みを浮かべて運転手の天田に行き先を告げた。そしてワゴン車は十五分ほど走って、米軍の基地の近くまでやってきた。
 勿論、許可なく基地に入るわけには行かない。車は基地と市内を隔てるフェンスの側で停車した。
「さあ、ここが国境線よ……」
 ベッキーはそう言うと、優と優里亜をワゴン車から降ろす。
「国境線って、ただのフェンスじゃん」
 優里亜が基地の中を物珍しそうに眺めながら、言うと、
「そうよ、ただのフェンスよ……でもこのフェンスの向こう側は、米軍のキャンプ瑞慶覧なのよ」
 と、ベッキーが改めて説明した。
 キャンプ瑞慶覧。それは、沖縄本島中部の沖縄市、宜野湾市、北谷町、北中城村にまたがる広大な地域に位置する在日米軍最大の基地だ。在沖米海兵隊基地司令部や在日米軍沖縄地域事務所が置かれるなど海兵隊の中枢機能を有している。
 また、兵器・器材整備施設や住宅地、ゴルフ場など米軍が駐留する上でのあらゆる機能が揃った施設である。
 だが、それは見ただけで判る。基地の中に無断で入れないように高いフェンスが張り巡らされているのだ。
「確かに、米軍の基地だけど、日本の中にあるんだから別に国境と云う訳じゃないんじゃない?」
 優は、ベッキーの云っている意味が判らないといった感じで言った。
「いいこと、米軍の基地ということは、そこは合衆国の領土ということなのよ。つまり、このフェンスの向こう側は合衆国そのもの、日本ではないってこと……向こう側では日本の法律は通用しないわ……ほら、自動車だって右側を走っているでしょ……」
 ベッキーはそう言って、フェンス越しに見える基地内の道路を指さした。
「あ、本当だ……右側通行だ……」
 優は言われないと気付かないような違いをベッキーに教えられて、感動したように言った。
「フン、貴女のお父さんは外務省に勤めているんでしょ。そんなことも知らなかったの……法律が違うということは、もうこのフェンスの先は異国ということよ。異国ということは、そこで何が起きても我々には何もできないの。警察もよ……」
 優にはベッキーが何を言いたいのか判らなかったが、このフェンスの先が異国であり、このフェンス自体が国境線であることは理解できた。
 ホテルに戻ってきた三人には、すぐに沖縄ロケ最後の収録が待っていた。
『日本の中に異国があったことを知っただけでも、良しとするか……』
 楽しいはずの外出時間も、ベッキーの荷物持ちをさせられただけで終わってしまったが、前向きな優は別に不満に思わなかった。
 遊びたければ、明日一日残っている。そう、ロケの最終日は家族サービスのためのオフ日であった。スタッフの多くは今日の収録後に東京に戻るのだが、出演者達には明日一日沖縄を満喫して、明後日帰る予定になっていた。
「優ちゃん……あびる優ちゃん……」
 最後の収録が終わった後、優里亜の家族と一緒に夕食にでようとしていた優に、スタッフの一人が血相を変えて走ってきた。
「ああ、優ちゃん。大変なんだ。電話が入っている。すぐに来て……」
「あ……は、はい……おばさま、すいません」
 優は優里亜の両親に頭を下げるとスタッフについて走り出した。
 何のことだか判らないが、スタッフの只ならぬ様子に優里亜とその両親もついてくる。
 ホテルのフロントまで来た優が電話を取ると、それは実家の近くにある病院からの電話であった。
 電話の内容は、実家で一人留守番をしている祖母が心臓発作で倒れたという知らせであった。両親はともに海外にいるので、身内のものとしては優しか居ない。
「優ちゃん、今からだったら最終便に間に合うわ……」
「そうだ、帰ってあげなさい……」
「私たちもついて行ってあげられたらいいんだけど……」
 電話の内容を聞いた優里亜の両親が、心配そうに言った。だが明日は優里亜も楽しみにしている家族団らんのオフ日なのだ。
「いえ、大丈夫です。一人で帰れますから……」
 優が丁重に断っているときに、番組プロデューサーの八神と太田チーフも知らせを聞いて駆けつけてくれた。
「優ちゃん連絡は聞いたよ。すぐに戻るんだ。飛行機の手配は電話でしたから、カウターで言えばすぐに乗れる」
「車を出してあげられたらいいんだけど、あいにく天田のやつが飲みに出ちまったらしい……悪いが空港まではタクシーで行ってくれ……」
 親切にも二人は、飛行機の手配や車の手配までしてくれていたらしい。
 優は二人に礼を言うと、帰り支度をするためにホテルの個室へと戻っていった。帰り支度と云っても荷物をまとめるだけだ。ソフトデニムのミニスカートに白いTシャツのままだったが、お洒落をしている余裕はなかった。
 再び、フロントまで来たときには、もうタクシーが待っている。
「優ちゃん、次の収録については、局から連絡するから、心配しないでお祖母ちゃんの側について居てあげなさい」
 八神プロデューサーの優しい言葉に見送られて、優はタクシーに乗り込んだ。
「すいません、空港まで急いでください……」
 優を乗せたタクシーは、夕暮れが迫る沖縄の街を走っていった。


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