『復讐の標的』
        第一章 黒沢ゆうこ        

第一章 黒沢ゆうこ

1.

 人里から遠く離れたとある山中、うっそうとした森の中に、ポツンと一つ山荘風の家屋が建っている。周りに樹木が生い茂る中、その建物の前だけは平地になっていて、そこにはワゴン車と黒塗りのクラウンが駐車していた。
 空が夕闇を色濃く映し出した頃、下から登ってきたらしい一台のBMWがその敷地に入ってきて、エンジンを止めた。
 するとクラウンの運転席からチンピラ風の男が出てきた。白いジャケットの下に派手な模様のシャツを身に付け、髪はポマードでべったりと撫で付けている。一目でその筋の人間と分かる風貌である。
 「どうも松本さん、ご苦労様です」
 チンピラ風の男はBMWから降り立った男に近づくと、うやうやしく頭を下げた。
 「何も変わりはないか」
 松本と呼ばれた男は辺りを見回しながら、ドスの利いた低い声で言った。
 「はい、近藤さんがお帰りになってから特別変わりはありません」
 「うむ、よろしい」
 松本信夫、四十七歳。インターマーケッティングという会社の代表取締役というのが一応の肩書きだが、この会社の社員は松本一人であり、実質彼の個人会社であった。チリチリのパンチパーマといい、サングラスの男に負けない派手派手しい服装といい、堅気の人間にはほど遠い風貌である。
 「お前たち、よもやもう手を出してはいないだろうな」
 松本はジロリと男を睨みつけて言った。
 「滅相もない、我々も命は惜しいですからね。松本さんの事はかしらからよく伺っていますから」
 男は苦笑いすると、両手を広げ肩をすくめて見せた。
 今でこそ一企業の社長を務める松本だが、昔は色々な仕事に手を出し、非合法な商売も手がけていた時期があった。やくざとのつき合いも広く、かつて松本に世話になったり、恩義のある者も多い。そのため松本の名前は未だに裏世界に轟いていた。
 「まあ、もう少しの辛抱だ。次のターゲットがうまく捕獲できればあの女はのしを付けてお前たちに回してやる」
 「後10日ですね、他の二人も気合いが入っていますよ」
 「当たり前だ、大金がもらえる上に、いい女を好きに出来るんだ。これで気合いが入らなきゃ男じゃないぞ」
 「ええ、全くで」
 二人は会話を交わしながら建物の中へ入った。
 部屋の中は照明が煌々と点っていた。この山荘は棟の裏手に小屋があり、そこで自家発電を行っているため山奥でも電気が使えるようになっていた。
 「あ、そこの右の部屋です」
 階段を上った所で男が言った。
 男が指さしたドアの前には、サングラスをかけた男が見張りのように立っていた。男は松本の姿を認めると軽く会釈をした。
 「ご苦労、お前もここで待機していてくれ」
 松本は付き添ってきた男に言うとドアを開けて部屋の中へ入った。
 中にはもう一人スキンヘッドの男がおり、その横には一人の女性が猿轡をかまされ、はりつけにされるようにベッドに拘束されていた。
 「済まないが少し外してくれ、社長には了解を得ている」
 「承知しました」
 松本から命令されたスキンヘッドは、椅子から立ち上がるとドアの方へ進んだ。
 「念のため外で錠前をかけておきますから、用が済んだらドアをノックして下さい」
 部屋を出る際、スキンヘッドが松本を振り返って言った。
 「分かった」
 「では失礼します」
 ドアがバタンと閉められた後、外でカチャカチャと施錠する音が聞こえてきた。
 「さてと、始めまして、だな。黒沢ゆうこくん」
 松本はベッドへ向き直ると、そこに貼り付けにされている女性に卑下するような目つきを向けて言った。
 黒沢ゆうこ、十八歳。芸能プロダクション・ティップに所属するアイドルタレントである。スカウトされて、デビュー間もなく発売された写真集「スピリット」で、当時の十六歳という年齢に似合わぬ大人っぽい表情とスレンダーな肢体が人気を呼び、たちまちグラビアやCMに引っ張りだこになった。昨年は趣味でやっているウェイクボードのクイーンに選ばれた他、最近ではCMやテレビのバラエティ番組にも起用されるなど、その人気は若い男性を中心に広がりつつある。
 「おっと、まずそいつを外してやろう。俺は手足の利く女とやりたいんでな」
 松本は慣れた手つきでゆうこの猿轡と手足の拘束を解いてやった。
 「あなた達はいったい何者なんです。何が目的なんですか!」
 拘束を解かれたゆうこは起きあがると、キッと松本を睨みつけて叫んだ。
 「まあ、おいおい分かるさ」
 松本は上着を脱ぐと首からネクタイを外した。
 「もっとも分かったところでどうにもならんだろうがな」
 「ど、どういう意味ですか」
 「そんな事より、先日はだいぶ社長に可愛がられたようじゃないか」
 不意に言われた松本の一言にゆうこの顔に当惑の色が浮かび、サッと頬が赤くなった。
 「知ってんだよ、社長のデカマラをくわえ込んで、ヒイヒイヨガッたんだってな」
 Yシャツ、ズボンと脱ぎながら松本は続けた。
 下世話な松本の言葉に思わず顔を背けるゆうこ。
 三日前、仕事を終えてマンションに帰る途中で、ゆうこは突然拉致され、訳も分からずここに連れて来られた。しばらくすると見たことのない男がやって来ていきなりゆうこに襲いかかったのだ。
 ゆうこは必死に抵抗した。しかしそんなゆうこをあざ笑うように男は巧みにゆうこの服を剥ぎ取り、その清らかな肌に愛撫を加えていく。しかし陵辱であるはずの男の行為は意外にも繊細で巧みだった。狂おしいほどの恥辱に涙を流しながらも、ゆうこは身体が次第に熱く蕩けて行くのをはっきりと感じていた。
 恥ずかしい部分を舐められた時はさすがに再び抗ったが、そんな行為にすら身体の芯が熱く溶けていき、花肉からはネットリした蜜液を次々と溢れさせた。そして最後には深々と貫かれて、ゆうこは初めてのオーガズムすら覚えてしまったのだ
 あの時の事は未だにゆうこ自身理解できなかった。好きでもない男に辱められて、何故感じてしまったのだろう、その事がたまらなく悔しかった。
 まさか、私の身体が目的なの....?
 ゆうこは背筋に戦慄が走るのを覚えた。それならこの前の男のこともあるし、つじつまは合う。しかしそれにしても何故自分なのか、もっときれいでスタイルのいい人はいくらでもいるのに.....。
 「社長には負けるが、俺のもなかなかのもんだぜ」
 空想を断ち切られ、ゆうこはハッと我に返った。松本がトランクス一枚でベッドの上に上がってきた。
 さっきまで勝ち気だったゆうこの表情に、サッと怯えの色が走る。
 「あ、あなたみたいな人に、感じたりなんか.....」
 言い返すゆうこ。しかし最後の方は口ごもってしまった。この男の陵辱にまた変な気持ちになったりしないだろうか、この前のことを考えると自信がなかった。
 「フフ、その強がりがいつまで持つかな」
 「アッ、イヤッ!」
 松本はゆうこの足首を掴んで引き倒すと、その上にのしかかっていった。

 


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