『麗と隷』
       第十三話       

第十三話

 法子は項垂れたまま、安岡の運転する車の助手席に凭れていた。着衣を許されているものの、幅の狭いチューブトップと、ヒップハンガータイプのホットミニで、その水着のような装いは、臍は剥き出しのままであり、法子の透き通るような白い肌の大半を露出させている。
 これだけ過激な装いをしていれば下品な感じが滲み出るのであろうが、清潔感の漂う法子が着ると、爽やかな色香を放ち、透明感にも溢れている。
 運転する安岡は、わざわざ法子を隣に座らせ、法子の脇腹や太股に手を差し伸ばし、その感触の良い肌を弄んでいた。後部座席では陽子が上機嫌な顔をして、安岡に良いように嬲られている法子を見守っていた。

 昨日、全裸のまま事務所に戻った法子は、そのまま事務所の関係者が勢揃いしている中で゛奴隷宣誓書゛の宣誓を強制された。そんな法子に、他の女の子達は派手な嘲笑と侮蔑の声援を送り、男達は鼻の下を伸ばしながら、法子に卑猥な声援を送った。
 法子は、屈辱感に苛まれながらも、自らの貶められた境遇に酔い、自分の肉体を忌々しげに思いながら密かに花唇を濡らしていた。
 そして、奴隷宣言を行った記念だと称し、十数人の見守る中でマン拓を自ら取らされ、それを掲げ全裸で直立する法子を中央に立たせて全員で記念撮影を行った。プリントアウトされた写真には、引きつった哀愁の満ちた笑顔で、自らの露わな秘肉の真っ赤な写しを掲げる全裸の法子と、十数人の蔑んだ様な笑顔が収まる異様な風景が写し出されていた。

「しかし、昨日の奴隷宣誓は、良かったなぁ。俺も、お前が立派な奴隷になれるよう、いろいろ協力してやっから、な」
 法子は、安岡の下品な笑顔も、その卑しい口調も大嫌いであった。そういえば、この底の無い淫獄への縁で、最初に出会った人物はこの安岡であった。それから法子の陰惨と屈辱に満ちた人生が始まったのだ。
 しかし、法子は強く唇を噛みしめ、
「は…い。…宜しく、お願い…します」
 小さな声で切なげな哀願をし、小さな溜息を吐く。忌み嫌う男にも、卑屈にならざるを得ない屈辱に、法子の身体は小刻みに震えていた。
 やがて車は東都テレビの駐車場へと滑り込んでいった。ようやく行き先の分かった法子は、再び深い溜息を吐いた。
 藪だ。法子の胸が一気に憂鬱に染まる。車が止まると、陽子が冷たい声で「行くわよ」と言い放ち、降りてしまった。法子も慌てて降りようとすると、安岡に強い力で腕を握られた。困惑した表情を安岡に向けると、安岡は卑しい笑みを浮かべている。
「あの…、触って…頂いて、…有り難う…御座いました」
 法子が虫唾を走らせながらも、良いように触られていた事に対し礼を言うと、安岡は更に唇を歪ませ、法子の品のある唇を吸い込んだ。
 法子はいきなりの安岡の仕草に、反射的に身を引いてしまった。
「なに、逃げてんだよ」
 安岡は怒りの含んだ口調で法子に詰め寄ると、法子の剥き出しの太股を思い切り抓り上げた。法子は、小さな悲鳴を上げながらも、
「ぁいっ…、つっ…、ごっ…御免な…さい」
 法子の幼気な美貌は苦悶の色で染まり、必死で苦痛に耐えている様子を、安岡は好色の帯びた笑顔で舐め回した。ひとしきり、苦痛に歪む法子の健気な表情を楽しんだ安岡は、再び法子の唇に吸い付いた。安岡のきつい口臭が、法子の鼻につき咽せかえりそうだ。
 安岡が法子の舌を乱暴にこねくり回していると、陽子が車のガラスを叩いた。
「早くしなっ」
 陽子の声に、安岡は敏感に反応すると、陽子に照れ笑いを浮かべる。
「法子が、せがむんだ…。キスさせてくれって」
 安岡の卑劣な言い草にも、法子は唇を強く噛み締め項垂れるだけだ。しかし、陽子の厳しい視線を感じると、
「ご、御免なさい…。安岡様…、有り難う御座いました」
 法子には屈辱感に浸る自由さえ奪われている。
 素早く車を降りると、陽子の冷たい背中の後を必死で追った。
 白昼のビルの中を、思い切り肌を露出させた水着のような恰好で歩いていると、その頼りなさに思わず俯きがちになってしまう。すれ違う人達がそんな法子に好奇の視線を浴びせてきた。法子のその肌は、羞恥に赤味を帯びてくる。
「下向いたら、駄目でしょ。会釈ぐらいしなさい。お行儀が悪いと゛教育゛するわよ」
 法子は゛教育゛という言葉に過敏に反応すると、羞恥に伏し目がちになるのを必死で堪え、陽子に言われるまま、すれ違う人々に会釈をしながら進んだ。
 
 陽子がとある扉をノックすると、その部屋に入っていった。法子は廊下で大きく息を吸い込むと、陽子の後に続く。
「お早う御座います」
 陽子に従い法子も深々と腰を折り、挨拶をした。煙草とコヒーの臭いが部屋には充満している。法子が恐る恐る顔を上げると、藪の姿が眼に飛び込んできた。その他にも数人のスタッフが長テーブルにつき、パイプ椅子に凭れていた。
 藪一人ではないことに、法子の胸に重い物が落ちる。
「おっ、法子。来たか…」
 藪の好色な笑みに、法子は曖昧な笑顔でこたえる。他のスタッフは、法子の装いに驚いたような表情を浮かべていた。今まで、水着にさえなったことのない倉木法子が、撮影でもないのに、肌の大半を露出させた装いで佇んでいる。しかも、そこはかとない恥じらいを見せながら…。
 陽子が壁際の席に座った。法子はどうしていいのか分からず、おどおどしながらも部屋の中央でみなの視線に堪えていた。
「さて…法子。陽子から話しは聞いていると思うが、今度お前にドラマのメインをはらせてやるからな…」
「は…い。宜しく…お願いします」
 他のスタッフ達は、藪の居丈高な態度に怪訝な表情を浮かべていた。みなの知っている倉木法子は、扱いにくく、無愛想なはずだし、しかも半ばローカルな東都テレビである。人気のある彼女に対しては頼み込んで出演して貰うというような、VIPクラスの扱いをしていたはずた。それが、みなの前に立ち竦む法子は、何かに怯えているように不安定だし、妙に従順だ。
「さて…と、先ずはスタッフの紹介だ」
 藪はそういうと、端からスタッフ達を紹介していく。法子は、その一人一人に深々と腰を折り、礼儀正しく挨拶をしていった。法子のその態度に、スタッフ達の怪訝な思いは益々深くなったが、みな平静を装い、法子と挨拶を交わす。

 ひとしきりドラマの説明があった。とある女子校に転校した法子が、負け癖の付いている各スポーツ部に入り、だらしないそこの部員達を奮起させ各部を強豪にしていく、そういう内容のようだ。
 法子は話しを聞きながら、何となく安堵感を覚えた。藪のドラマというから、もっと酷い内容だと思っていたのだが…。しかも、驚いたことに藪がプロデューサー、演出、脚本の三役をこなすつもりらしい。
 しかし、それにしても早すぎる。普通ならば企画から始まり、スタッフ編成、そして脚本、美術、番宣、スポンサーなどとの折衝など、ここまで来るのに少なくとも半年以上はかかるはずだ。話しを聞くと深夜枠らしいが、それでも、早い。
(もしかしたら…、私の運命は…そんな前から?)
 一体、今の境遇に陥れた本当の犯人は誰なのであろう…。法子の胸に大いなる疑惑が生じてくる。複雑に絡み合った蜘蛛の巣にかかった幼気で美しい蝶は、二度とその巣から逃れられそうにない。

「今日は、メインのお前の衣装合わせだ」
 そういえば、様々な衣装が部屋の端でハンガーに掛けられている。
「一応、学園物だから、制服が主だがな。…どれからでもいい、全部着てみろ」
 法子は藪の言いつけに従い、衣装掛けに近寄った。
「そこのパーティションの向こうででも着替えろ」
 法子は、藪の言った方向を振り返った。そして、衣装の中から一着を選び、その方向に歩き出そうとしたとき、法子の身体に冷たい戦慄が走った。
 恐る恐る陽子に視線を向けると、鬼のような形相で法子を睨み、小さく頭を振っている。法子には、瞬時にその意味が分かった。俯き、小さな溜息を吐く。
「あの…、ここで、着替えさせて…頂きます」
 再びスタッフ達を振り返った法子は、力のない声で答えた。微かにその華奢な身体が震えだし、露出させた白い肌にも羞恥の赤味を帯びてくる。
 今日はインナーが許されているものの、やはりスタッフの目の前で着替えるのは恥ずかしい。昨日の奴隷宣言では法子が人間的感情を抱くことは禁じられているが、羞恥心は捨てきれない。
(でも…、着替えなくちゃ…、裸より…ましじゃない…)
 昨日、全裸のまま天下の往来を歩かされたが、被虐の甘美な炎が燃えきれない今、法子は、必死で自分に言い聞かせた。
 法子は小さく息を吸うと、小刻みに震える指で、チューブトップを脱いだ。シルクのブラジャーが露わになる。部屋は法子の着替えを見つめるスタッフ達の、唾を飲み込む音まで響いている。
 震える唇を隠すかのように強く噛むと、法子はホットミニのボタンに手を掛けた。指が震えていて思うように外れない。
 それでもようやく外すと、それも脱いでテーブルに置いた。僅かに股間を隠す程度のショーツは、Tバックスタイルで、法子の形の良い臀部も露わになる。スタッフ達の息遣いが、法子の耳に飛び込んでくる。
 法子は急いで一着の制服を手に取り、それを着ようとするが、
「おいっ、靴も脱いで、そこにある学生靴に履き替えろ」
 法子は、上目遣いで藪を見ると、小さな返事を返した。スタッフ達の視線が突き刺さる。
 紐のあるハーフブーツを履いていた法子は、やはり不器用に靴も脱いでいく。

 結局数着の制服を、スタッフ達の好奇と好色の入り混じった視線の中で着替えさせられた。
「どれが良い…」
「やっぱ、セーラー服でしょ」
「俺はブレザータイプの方が好きだけどなぁ」
 何のことはない。衣裳合わせなどと言いながら、居酒屋の会話になっている。法子はスタッフ達の会話を聴きながら、羞恥に俯いていた。
「法子、もう一度セーラー服、着てみろ」
「はい…」
 法子は、小声だが従順な返事を返すと、再びセーラー服に袖を通した。濃紺の襟元に三本ライン、袖口も同様だ。少し広めの胸元と、そして赤いスカーフ、ごく一般的なセーラー服も、法子が着るときらきらとした輝きを放ち、透明感に満ち溢れている。
(ふふ…、アイドルとしても、女優としても超の付く一流になれただろうに…、みんなの奴隷とは…な。惜しいんだか、嬉しいんだか…)
 藪は、セーラー服を着て佇む法子に卑猥な笑みを浮かべると、
「それでいいだろ」
 藪は皆に同意を求めた。スタッフ達は藪に大袈裟な相づちを打つ。どうやら藪のイエスマン達らしい。
「法子、スカートの丈は、そのままでいいのか?」
 意地の悪い質問をする。法子はその声に自分の脚もとに視線を落とした。今は膝上の辺りのスカート丈であるが、もっと短くさせたいのであろう、法子は小さく溜息を吐いた。
「いえ…あの…、もっと…短い方が…良い、です」
 スタッフ達は、藪と法子のやりとりを複雑な表情を浮かべたまま聞き入っている。
「ふぅ〜ん…、それならそのテーブルに鋏があるから、自分の好きな長さにしてみろ」
 法子は小さく返事をすると、震える指で鋏を持った。自分ではかなり短めのところに鋏を入れようとすると、陽子の咳払いが響いた。何気ない音ではあるが、法子の身体は過敏な反応を示した。法子はかがんだまま唇を噛み、更に上に鋏を構え直すと、瞳を伏せ、スカートを切った。カットされたスカートが床に落ちる。
「お前、そんな短く良いのか?」
 藪がしたり顔で問いただした。
「は…い。…このくらいが…良いです」
 法子のすらりと伸びた脚が剥き出しになる。少し動いただけで法子の臀部が見え隠れしそうな短さは、いくらミニが流行っている最近の制服とはいえあまりに短い。
「じゃぁ、その丈でいくからな…。上は、そのままで良いのか」
 セーラー服にまで、鋏を入れさせられるの…、法子の胸に又一つ重いものが落ちた。

 好色の視線を浴びせるスタッフ達の前での着替えは、それからもブルマーやテニスウェアーなど様々なユニフォームを着せられ、行われた。みな、あの倉木法子が屈辱的とも思える事を、藪の言いなりに従うことが不思議であったようだが、次第に調子に乗って、法子にさまざまな恰好をさせた。
 開脚させたり、屈伸させたりと羞恥に満ちた行為をさせ、目の前の美少女のしなやかな肢体を堪能した。
(倉木法子は、我が儘だって聞いてたけど、何でも言うこと聞くじゃん)
 スタッフ達は法子の印象を180度変換させた。法子は深い溜息を何度も吐きながら、トップアイドルとしての誇りを徐々に失っていった。

 屈辱的で羞恥に満ちた衣装合わせから解放された法子は、一人控え室で椅子に凭れていた。これから藪の陵辱を受けるのであろう、そこで待つように陽子から言い含められた。
 鏡に映る哀愁に満ちた自らの姿を見ては、苦悩の表情を浮かべ視線をそらす。鏡に映る自分には、入念なメークアップが施されており、幼顔の法子をぐっと大人に見せていたが、その化粧も、藪からの陵辱を受ける為にされたものだ。
 目の前には携帯電話と僅かなお金、そして、バイブや手錠、首輪、浣腸液など法子にとっては触りたくもない物が沢山詰まったバッグが置いてある。陽子から預けられた物だ。
 そして…法子の幼気な菊門には鍵付きのアヌスストッパーがねじ込められ、鍵を掛けられている。それは以前、駅での懲罰に使用されたもので、ストッパーが装着されていながら浣腸液を流し込めるタイプのものだ。鍵は、藪が持っているのだろうか、法子の手元には無い。
(今日は、…どんな辛いめに、逢うのかな…)
 考えたくもない。しかし、法子にとって一番辛いのは、自分が最も毛嫌いする、もう一人の自分と対峙しなければならないことだ。
 もう一人の自分…、それは被虐の甘美な炎に浸り、どんな事でもしてしまう忌々しい自分だ。人としての誇りも羞恥心も掻き分け、ただ淫靡な頂きに昇り詰めるためだけにぐんぐんと突き進んでいってしまう。
 その卑猥で汚らわしい自分と、人としての誇りを捨てきれない自分が鬩ぎ合うのが何より辛い。しかも、いつも勝利するのは法子が忌み嫌う前者の方だ。
 法子が憂鬱に胸を染めていると、突然携帯電話の呼び出しが鳴り響いた。大袈裟に反応した法子は、震えながらも電話をとった。
『おぅ、法子。…まだ、仕事片づかないんだ』
 法子は思わず安堵の溜息を漏らす。
「は…い。お待ち…致しております」
『お前も、ただ待ってるだけじゃぁ暇だろう?』
 法子は力のない声で返事をする。
『それじゃぁ可哀相だから、暇つぶしに命令を下してやる』
 まるで恩を着せられるようなその言葉に、法子の胸は屈辱感で溢れてくるが、
「は…い。…有り難う…御座います」
『浣腸液、あるだろう?』
 法子の眉間に苦渋の皺が刻まれた。
『おいっ、あるんだろっ』
 藪の厳しい口調に法子は怯えた。
「はっ…はい、…あり、ます」
『よぉし、それじゃぁ、その浣腸液、お前のケツにぶち込むんだ…』
 法子は強く唇を噛んだ。
『返事はどぉしたぁ』
 呑気な口調の藪の卑しい声が法子の耳に響く。
「は…い。…御命令、有り難う…御座います」
 法子は苦渋の表情を浮かべたまま、何とか返事をした。
『誤魔化したりするんじゃぁねぇぞ』
 法子は恐る恐るバックを開けた。イチヂク浣腸がご丁寧に1ダースも入っている。
『おいっ、ちゃんと入れるトコ、実況中継しろっ』
 法子の眉間の皺が益々深くなる。法子は震えながらも浣腸液のパッケージを破ると、その一つを手にした。切ない吐息が漏れる。
「あの…、それでは、入れさせて…頂きます」
『よしっ、じゃぁ、ぶち込めっ』
 法子は大きく息を吸い込むと、静かに立ち上がり、そしてゆっくりと浣腸液を握り潰した。冷たくおぞましい感触が、法子の腸に染み渡る。ふと、鏡の中の自分と視線がぶつかった。そこには、惨めで痛々しい自分が映っていて、慌てて視線を外した。
 こんな自分、見たくない…。
「入れ…ました…」
 哀愁を帯びた力のない声で、法子は告げた。
『駄目だろっ、何時入れたかわからんじゃないかっ、もう一度だ』
 法子は肩を落とし、項垂れたが、
「す…すみません…でした。…もう一つ、入れさせて…頂きます」
『ふふっ、お前、本当は沢山入れたくて、わざと俺が気にいらんことしてるんだろ』
 法子は思わず携帯電話を握りしめた。唇を強く噛む。
「は…い。…仰る、通り…です」
(…私は、意志を持っちゃいけないの…。全部、みんなの言うとおり…)
 法子は倒れそうになる意志を、必死で立て直す。
『この変態めっ、いいから入れろっ』
 法子の頭に、言いようのない痺れが駆け巡る。法子は複雑な吐息を一つ漏らすと、自分に激痛を与えるであろう浣腸液を見つめた。
「入れ…ます。あの…今、法子のお尻の…穴に、入れました。…ぁ、はっ、入って…います…」
 法子は屈辱に満ちた実況をしていく。
「全部…入れました」
 法子は大きく息を吐いた。
『よしっ、そのまま、待ってろ』
 電話は一方的に切れた。法子は鏡台に電話を置くと、音を立てて椅子に崩れた。これで、藪に鍵を開けて貰わなければ浣腸の激痛からは逃れられない。やがて自らを襲うであろう理不尽な苦痛と屈辱と羞恥に、法子は心の底から恐怖を覚えた。

 浣腸液を注入してから、一体どれくらいの時間が経過したのであろう。つい今し方のような気もするし、大分過ぎたような気もする。
 法子は、自分の膝の上で拳を握りしめ、感触の悪い汗をかきながら、荒い呼吸をしていた。腸を捻り上げられるような激痛は、断続的に法子を襲い、その表情も苦悶に満ちている。
(あぁっ…、はっ、早く…して)
 目を強く瞑り、法子は藪からの連絡を待った。しかし、その連絡は虐待を受ける連絡でもある。法子は矛盾した自らの心の狭間でも、苦しんでいる。
 その時、携帯電話の呼び出し音が響いた。法子は不規則な呼吸のまま、通話ボタンを押す。
『よっ、どうした。苦しんでるか?』
「はっ、はい。…あの…くっ…苦しい…です」
 携帯電話から、藪の好色で下品な笑い声が響いた。
『俺に、虐められたいか?』
「は、はい。…虐めて…下さい」
 法子の腸は限界を超え、思考能力を奪い従順にさせた。
『お前、…本当は、痛みから解放されたくて、そんな事言ってんだろ』
「いえっ…違います」
 法子はそう言ってから、はっとした。
『なんだ?俺の言ってることが、違うのか?』
「いっ、いえ…そうでは…ありません」
『ふっ、また逆らいやがって…、仕事は片づいたんだが、罰としてもう少し苦しめ』
 藪は語尾を強くすると電話を一方的に切った。絶望的な想いが法子を襲う。全身からは嫌な脂汗が噴き出し、強く噛んだ唇は変色しそうだ。鏡に映る自分が、酷く哀れだ。

(痛い…、御願い…もう、助けて…)
 鏡台に突っ伏したまま、法子は不規則に喘いでいた。刺すような腸の痛みは益々激しくなり、限界を遙かに超えている。
 三度携帯の呼び出しが響いた。法子は音を立てて半身を起こすと、携帯電話に縋り付いた。
『どぉしたぁ…反省したか』
「は、い…、反省…くぅっ…しました…」
 法子の声は切羽詰まり上擦っていた。
『ほんとぉかぁ』
 藪の呑気な声が耳障りなほど響く。
「ほっ、本当です。…おっ、お願い…します。ぁあ…法子を…私を…虐めて…下さい」
『そんなに恥ずかしくて辛い目に遭いてぇのか?』
 法子の眉間に刻まれた皺は益々深くなるばかりだ。
「はい…私に…恥ずかしくて…辛い…うっ…御命令をして下さい」
『ふふっ…変態が…、それじゃ、取り敢えず表に出て、俺の指示に従え』
 法子は安堵の溜息を深く漏らすも、結局は羞恥と屈辱に満ちた陵辱が始まっただけだ。

 法子はすっかり夜の帳の落ちた街を、腰を引かせた不格好な歩き方で歩いていた。相変わらず肌のほとんどを露出させた半裸状態であり、法子の不可解な仕草とその装いに視線が集まる。しかし、法子にはそんな好奇に満ちた視線を気にしている余裕は無かった。
 時折、腹部を襲う激痛に耐えきれず、その場で蹲ってしまう。なんとか必死に堪え、歩を進めるものの、身体は汗で光り、表情は深い苦悶を浮かべたままだ。
 途方もない距離を歩かされた気がするが、ようやく藪が指示した建物に辿り着いた。法子は壁に凭れながらも、ふらふらしながら階段を降りた。本来であれば、地下の訝しげな店になど恐怖と不安が先立ちとても一人で入れない。しかし、腹部を襲う痛みから解き放たれたい一心で、法子は正常な判断を下す思考を失っていた。
「いらっしゃいませ」
 重く不気味な扉を開けると、黒衣装の男が出迎えた。
「あっ…あの、…や、藪様の…連れの者なのですが…」
 男は唇を歪ませると、不規則に喘ぐ法子を藪の元へと案内した。

 店は異様な雰囲気を漂わせていた。照明の落ちた客席と、スポットライトを目映いばかりに浴びせたステージが浮かんでいる。そこには五十ほどの客席があり、今は三分の二くらいが客で埋まっていた。SMショーを行っているパブのようだ。客はカップルもいれば、男達だけのグループ、そして一人でグラスを傾けているものもいる。
 ステージでは若い女が、中年の男に身体中を縛められ、喜悦な悲鳴を上げ陵辱を受けていた。
 ようやく法子の胸が不安に覆い尽くされる。こんなとこへ呼び出して、一体藪は何をさせる気なのだろう…。
 店員に案内された席は一番端のソファーで、分厚い唇を歪ませ藪が凭れていた。法子が不格好に歩み寄る。
「おぅ、ようやく来たか、遅かったじゃねぇか」
「ごっ…御免な…さい」
 腸の激痛と不安とで、法子の言葉が途切れ途切れになる。
「まっ、座れ」
 法子は、まるで臀部に腫れ物でも出来ているかのように、ゆっくりと座った。そして、肩で息をしながら、縋るような視線を藪に向ける。
「ほらっ、見てみろ」
 藪がステージの方向に顎をしゃくる。法子は小さな溜息を漏らすと、狭くなった視界をステージに向けた。
 スポットライトが煌々と照らされたステージでは、二十歳くらいの女が天井から伸びた縄で吊され、鞭で打たれていた。その女は恍惚とした表情を浮かべ、今にもこぼれ落ちそうな乳房を揺らしている。
「思いっきり、恥ずかしい事、してぇんだろ?」
 法子は、苦悶と哀愁に潤んだ瞳を藪に向け、小さく頷いた。藪は下品な笑みを浮かべると、法子の華奢な肩に手をまわし、法子を引き寄せた。
「ふふ、ステージの、垂れ幕のとこ見てみろ」
 藪に言われ、彷徨う視線を垂れ幕に合わせた。そこには、゛SM嗜好会 定例SMショー゛と書かれていた。
「右端に、何か光ってるだろ」
 法子は訝しげに焦点の合わない瞳を必死で合わせた。確かに右端に、何かきらきらした物がスポットライトを浴びて光っている。
「ふふ…、お前の、鍵だ」
 法子は愕然とした。身体中の血液が逆流を始め、激しく脈打っていた心臓も益々暴れだす。
(まさか…まさか、こんな大勢の、前で…)
 法子は、再び切なげな表情を藪に向けた。その幼気で哀愁に満ちた法子の表情を見て、藪は凄まじい笑顔を見せると、震えている法子の唇を吸い込み、可憐な舌を堪能する。
 法子の可憐な舌を堪能した藪は、やがて法子に不気味な笑みを向けた。
「お前は、虐められるために、生きてるんだ…ろ?」
 法子は深い哀愁を漂わせながらも、藪を見つめ小さく頷いた。
「あのステージで、垂れ流すか?」
 法子の心臓は口から飛び出そうだ。
(あぁ…やっぱり…、で、でも…あんな…とこで)
 法子の眉間に刻まれた皺が、益々深くなった。藪は苦渋の表情を浮かべる法子を冷ややかなに見つめると、法子の髪の毛を鷲掴みにした。そして、頸が折れるかと思われるほど後ろに仰け反らせる。
「あぁっ…くっ…ん」
 極端に狭くなった呼吸をするための道が、法子を苦しめ更に喘がせた。
「お前…嫌、なんだろ?今、嫌そうな顔、したよな?」
 法子は返事に窮した。藪の言葉に反発は出来ないし、しかし肯定すれば、もっと酷い仕打ちを受けるであろう…。
(私は…私は…奴隷…)
 法子は譫言のように呟くと、
「あ、あの…もっ…と、もっと恥ずかしい…こと…、させて…下さい」
 苦しそうに喘ぎながらも、屈辱に満ちた懇願をする法子に、藪が破顔する。そして、チューブトップを捲り上げ法子の乳房を露わにすると、それを握力を籠め握り潰した。
 法子は、腸の痛みと乳房の痛み、そして喉の痛みと、どの痛みに藻掻いて良いのか分からなくなる。
「そうかぁ、もっと辛くて恥ずかしいめに逢いてぇんだな…。さすが、゛奴隷宣言゛をした変態だけあるじゃねぇか」
 藪はそう言うと、法子の髪の毛と乳房を離した。法子は大きく息を吸いこむが、羞恥地獄はこれからだ。
「じゃぁ、素っ裸になれ」
 法子の瞳は、益々深い哀愁が漂う。しかし、法子は項垂れるように頷くと、震える指を駆使して、与えられていた服を脱いだ。暗闇に包まれているテーブルとはいえ、こんな大勢の客のいる店で全裸になることに、法子の裸身は小刻みに震え、羞恥に紅く染まる。
 しかし、藪に虐待を受け、その身体の全てを晒していると、不思議と腸の激痛が和らいでくる。自分の被虐のスイッチが徐々に入り始めた事に気付き、法子は深い溜息を漏らした。
 藪はそんな法子の想いなど無視し、法子が持ってきたバックを開け、首輪を取り出した。そして、それを法子のほっそりと伸びる頸に付けた。
「手錠も、付けてやるよ」
 藪は法子の腕を後ろに廻させると、法子の手首を拘束する。法子は、その表情を苦渋に染めながらも、瞳に妖しい光を宿す。
「でも、そのままじゃぁ、倉木法子って、ばれちまうな…」
 藪は加虐の炎を燃やしながら呟くと、奇妙な物をバックから取り出した。法子が訝しげな表情を浮かべる。
「これはな…こうして使うんだ」
 藪は掠れたような声で言うと、ゴムの付いた鉤状のものを法子の小さな鼻孔に引っかけ、後頭部に向かい思い切り引っ張る。
「ぁあ…つっ」
 その激痛に法子が小さな悲鳴を上げた。藪は苦しむ法子の表情を見て蔑んだような笑みを浮かべると、更に口の両端もフックを引っかけ、ゴムを極限まで引っ張った。
「ふふ、無様な顔だ…」
 藪はそう呟くと、伸びきったゴムを首輪の革紐にくくりつけた。
「アイドルとは、とても思えない顔だ…。見てみろ」
 藪は手元の灯りにスイッチを入れ、それを法子の顔に向けると、面前に手鏡を差し出した。法子の瞳に無様に変形させられた自分の顔が飛び込んできた。すると、全身から言い様のない不気味な戦慄に襲われ、思わず眼を反らす。
「ほらっ、見るんだよ」
 藪は法子の乳首に爪を当て、捻り上げた。
「くっ…ごっ、御免なさい…」
 法子は再び自らの醜い顔を写し出す鏡に視線を向けた。無様に上を向いた鼻孔はまるで豚のようであり、極限にまで横に伸ばされた唇は無惨そのものであった。余りの屈辱的なその責めに、法子の頭の中は真っ白になり、腸を襲う激痛さえ感じなくなっている。
「どうだ…、変態のお前には、とてもお似合いの顔だろ。ふふっ…これでお前が倉木法子だとは、誰も思わないだろな」
「…は、い。お心遣い…有り難う…御座います」
 法子は改めて醜く変形された自らの顔に視線を合わせた。
(これが…私の顔…?)
 法子の身体には、極限の屈辱から幾度も被虐の戦慄が走り、その度に身体を反応させていた。次第に瞳は潤み、滲みだした涙と相成りきらきらと輝いていく。
 ステージでは、ショーの第一幕が終了したようであった。女が縛められたまま舞台の袖に捌けると、スポットライトが落ちた。それと同時に、店内は淡い照明が着き、ほんのりと明るくなった。
「法子。今がチャンスだぞ。またショーが始まったら、ステージには立てないぞ」
 法子は焦点の合わない瞳を藪に向けると、小さく頷いた。その可憐で官能的な表情に、藪は改めて法子の美しさを思った。
 娼婦以下、いや家畜以下の扱いをしても、法子の美貌はまるでそれらの仕打ちを嘲笑うかのように輝き、その身体全体から発する清楚なオーラは決して色褪せない。それどころか最近では、大勢の嗜虐者達から責めを受けていることで、妖艶な色香さえ放ち、未だ成熟しきれない幼さとのアンバランスが、藪の嗜虐心を掻きむしる。
(すっかり…開発されちまったけど、何も知らないような顔してら…)
 藪は、虚ろな視線をステージに向けたままの法子の、美しい横顔に思わず見取れた。

(はぁ…、あの…、あの舞台に…立たなきゃ)
 法子の両脚は、余りの羞恥と屈辱に動かない。心臓が激しい音を響かせ暴れている。
「どうした…、それとも次のステージまで待つか?」
 法子は童女が駄々を捏ねるかのように、頭を振った。限界を遙かに越えている腸が、不気味に軋んでいる。
(法子…頑張って…立つのよ)
 自分で自分を励ます哀れさに苛まれながら、法子の脚はようやく微かに動かせた。
 法子は大きく息を吸い込むと、ゆっくり立ち上がった。膝ががくがくと震え、蹲りそうになる気持ちを歯を食いしばって堪える。
(行かなきゃ…あの…舞台に…)
 眉間には苦悶と羞恥の深い皺が刻まれ、後ろ手に縛められた両手を固く握りしめた。
「ほらっ、行って来い」
 藪が冷淡な笑みと共に、法子の小振りな尻を軽く叩いた。
 法子は小さく返事をすると、重く小さな一歩を踏み出した。
自分ではどうしようもないほど息が荒い。舞台へと続く花道が永遠の距離に思えてくる。しかし、法子の身体の一番深く剥き出しになった脆弱な本能が、自分の意に反し淫靡な音を響かせている。すると、それまで重く固かった脚が、ふいに軽くなった。
(私は…倉木法子は…みんなの…奴隷…)
 譫言のように心の中で何度も呟くと、次第に異様なざわめきに包まれ始めた客席の中を、法子は一歩一歩舞台へと進んでいった。

 


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