『僕のエロ小説物語』
            
 
 2.映画のようなツッコミを

『その夜、芳夫は壊れかけのステレオから流れるラジオ
をBGMにマンガを読んでいた。3日前に2年半付き合
った彼女に突然別れを告げられ、その直後に勤めていた
会社も倒産すると云う、ドミノ倒し日本新記録級の不幸
に見舞われた彼――小玉芳夫にとって、このアパートの
部屋は…… 』

            *
 
「…これって本当に面白い話になんのか?」
 眼の前に座った”彼”は、原稿用紙はパラパラとめく
りながら僕に疑わしそうな視線を送ってくる。
 一ヶ月前にこの喫茶店で妙な偶然と言うか…悪魔的な
運命で知り合ってしまったこの男に、僕はまた完成した
小説を見せるはめになっていた。
「まだ話が始まったばかりだろうが――。もう少し先を
読めよ」
 我ながら今回の作品には少しだけ自信があった。
「……う〜ん、何だろうなぁ〜」
 だが男は僕のコーヒーを勝手に飲みながら、まだ不服
そうな表情を浮かべている。
「今回の話は超有名なアイドルグループの一人が出てく
るんだからさぁ。ほら、つべこべ言わずに――」
 半ば自棄になりながら、僕は無造作に束ねた原稿用紙
を彼の手に押しつけた。

            *

『……ピィンポォ〜〜ン

 ――訪問客が極端に少なく、新聞の勧誘か新興宗教の
布教活動でしか鳴ることのない玄関のチャイムが、突然
の来客訪問を告げた。
 腕時計を見れば夜の10時である。いくら強引な新聞
の勧誘でも、こんな時間には来ないだろう。首を捻りな
がら芳夫は玄関のチェーンロックを外し、ドアをゆっく
りと開けた。
 するとそこには、
「こ、こんにちは。私、福井から来ました高橋愛って言
います。15才です。あの、TV東京のオーデション番
組があって、それに出ている女の子が合わせて4人いま
して――」
 顔中を真っ赤に染めて一方的に要領を得ない自己紹介
をする、青いジャージの上下を着た中学生くらいの少女
が立っていた。しかし、こんな夜中に知らない女の子が
突然家を訪ねて来て玄関先で元気よく自己紹介をしたら
大抵の人間は困ってしまう。もちろん芳夫とて例外では
ない。
「あの…誰かの部屋と間違ってないかな? それにTV
東京のオーディション番組って言われても、僕には関係
ないと思うから――」
 ほとんどTVを見ない芳夫には、少女が必死になって
喋ったことの半分も理解出来なかった。
「いえ、この部屋で間違いありません。えっと……福岡
県福岡市○△□区梅林西XYZ−33にお住まいの小玉
芳夫ですよね?」
 確かにそれは芳夫の住所であったが、彼の頭の中では
?マークが10個くらい点滅を繰り返していた。
「と、とりあえず部屋の中に入ろうか。それから、また
詳しい話でも――」
 何だかよく分からないが、こんな夜中に玄関先で長話
するのは近所迷惑である。芳夫は仕方なく少女を部屋に
通すことにした。……』

            *

「――って言うか、誰なんだよ? 高橋愛って」
 汚く束ねた原稿用紙からガパッと顔を上げ、男は不満
に満ちた表情でこっちを睨んでくる。
「ほら、モー○ング娘。の新メンバーだよ。知らないの
か? 二ヶ月くらい前のスポーツ新聞で、その中の一人
が怪我をしたとか言って大きく扱われてたはずだけど」
「知らねぇ〜よ、そんな奴。俺が知ってる新メンバーは
市井紗耶香だけだ!」
 彼は偉そうに言うと、自分で吐いた煙草の煙に顔をし
かめながら再び視線を手元の原稿用紙に戻した。
 ――こいつ、絶対にわざと呆けているよな。
 そう思いながら、うまいツッコミが思いつかなかった
自分が少しだけ悔しかった。

            *
 
『……その高橋愛と名乗る15才の少女はTVのオーデ
ィション番組に出るだけあって、確かに愛敬のある顔立
ちをしていた。軽く肩にかかるくらいの艶やかな黒髪に
キュウリのような少し面長の顔。笑うと吊り気味になる
大きな目とすう―っと通った鼻筋。決して美少女とは言
えないが、自然と親近感を感じさせる雰囲気がある。
 そんな事をぼんやり考えながら芳夫は、ちゃぶ台の前
にちょこんと座っている少女に使い古しの湯飲みに入れ
たお茶を出した。
「――で君はその…何とかって云う有名なプロデューサ
ーの主催するオーディションの参加者で、適当に選ばれ
た全国の視聴者の家を訪ねてお芝居の練習をしてるわけ
か?」
 少女の話によると、世間ではかなり有名で人気のある
アイドルグループの追加メンバーオーディションが現在
行われていて、その最終演技力試験の練習相手に何故か
芳夫が選ばれたと云うことらしい。もちろん本番の試験
では正規の役者が相手役をやるので、それまでに全国か
らアトランダムに選ばれた素人相手に練習をするのだそ
うだ。
 にわかに信じ難い話ではあるが、そのウルウルした瞳
で芸能界デビューに賭ける熱い意気込みを切々と語られ
ては、冷たく追い返すわけにもいかない。
 覚悟を決めたように、芳夫はちゃぶ台の上にポーンと
置かれた芝居の台本を手に取った。……』

            *

「おおーい、何だこの展開は? どうしてアイドルの卵
が素人の家に突然現れて芝居の練習をしなきゃいけねぇ
ーんだよ。全然リアリティーがないだろうが!」
 男は心底呆れたような口調で、僕に原稿用紙を突き返
してきた。
「いや、確かに御都合主義だとは思うけどさぁ。素人の
男性とアイドルの卵が知り合うキッカケってこんな感じ
が一番自然かなと思って――」
 そんな苦し紛れの言い訳を言い終わらぬうちに、男は
更に矢のようなツッコミを浴びせかけてくる。
「それにさぁ、長い前置きのわりには全然Hな物語が始
まりそうにないんだけど…。一体いつまで、この出来の
悪いラブコメみたいな展開が続くんだ?」
 この野郎、勝手なことばかり言いやがって――と思っ
たが、
「もう少し辛抱して読めよ。そしたらお待ちかねのHな
展開が始まるからさ」
 僕はささやかな皮肉を言うのが精一杯であった。

            *
 
『……部屋の片隅に置かれた、洋服掛け代わりのぶら下
がり健康器に軽く吊り下がるように、両手首を縛られて
いる少女――愛の前に立ち、芳夫はひどく困った顔をし
ていた。
「あの…この台本って絶対オカシイと思うんだよね」
 それは一見ごくありふれたドラマのように思えた。
 或る日、大富豪の孫娘が身代金目的に誘拐される。警
察の眼を欺き大金をせしめようと画策する犯人と、それ
を地道な捜査で追い詰めていく警察との熱い闘い――と
云う典型的なサスペンスミステリーの筋書で、その大富
豪の孫娘役が彼女に与えられていた。
 しかし、芳夫は一つ符に落ちない点があった。それは
話の中で、身代金目的に誘拐したはずの少女を犯人が執
拗に辱めるシーンが妙に多いのだ。台本の三分の一はそ
んな官能シーンに費やされていた。
 そんなポルノ小説まがいの台本を前にして、彼は頭を
抱え込んでしまった。
 ――いくらなんでも、15才の中学生を相手にHな事
をやっちゃマズイだろう…。
 だが当事者である愛は、東京から芳夫の住む福岡まで
電車で来る間にすっかり覚悟を決めたらしく、部屋の隅
にぶら下がり健康器を見つけると、それに自分を縛って
吊るすように芳夫に段取りよく指示を出した。
 言われるままに愛の両手首を縛りぶら下がり健康器に
吊るしてみたが、彼にとってもこんな経験は生まれて初
めてである。
「私の方は大丈夫ですから――」
 自分よりかなり年下の少女に優しい言葉をかけられて
芳夫はますます途方に暮れてしまった。………』

            *

「カァ――ッ、何か甘ったるい! 首の回りに砂糖を塗
られたみたいに、ああームズムズするんだよなぁ」
 男はそう言いながら、本当に痒そうに首の回りをガシ
ガシと掻き始めた。
「いや、前回はかなり陰湿な話を書いたから、今回は爽
やかな路線のストーリーを目指したんだけどな――」
 一ヶ月前に書いた作品との対比で明るい感じの話を敢
えて作ってみたのだが、残念ながら彼には気に入っても
らえなかったようだ。 
「…ところで話は変わるけど、この前言ってた”乙葉”
の話はいつ書いてくれるんだ? 早くしろよな!」
 ――何だよいきなり…そんな約束してないからな!
 小さくため息をつき、結露で曇った窓ガラスに目をや
ると――外はこの冬はじめての雪が降っていた。

            *

『……いつまでも躊躇しているわけにもいかず、愛の出
番が殆どない前半部分は省略することにして、肝心の官
能描写が始まる中盤部分から芝居の稽古を始めることに
した。
「と、とりあえず…これを脱ごうか?」
 ためらいがちに芳男は、愛が着ている青いジャージの
上着のファスナーをゆっくりと下ろした。
 中から顔を覗かせた無地のTシャツの白さがやけに眩
しい。15才と云う年齢に相応しく女性らしい胸の膨ら
みを真直に見て、芳夫は久しく忘れていた気恥ずかしい
ばかりの”ときめき”と”戸惑い”を憶えた。
「じゃぁ、稽古を始めるから――」
 台本をじっと見たまま芳夫は腕を真っ直ぐ伸ばし、お
もむろに愛の胸をギュッと鷲掴みにした。
 愛は唇を噛みしめ少し恥ずかしそうに顔を逸らす。
「おいおい、どうした! 金持ちのお嬢さんでもオッパ
イを触られたら、変な気持ちになるってか」
 芳男は誘拐犯になりきり台本通りに台詞を喋った。
「お前のジイさんにも孫娘のこんな哀れな姿を見せてや
りてぇーよな」
 精一杯の悪辣な表情を浮かべ、彼は愛の顔をいやらし
く覗きこみながら、鷲掴みにした片方の乳房を強く揉み
込んだ。服の上からも手には、適度な大きさと柔らかさ
が伝わってくる。
「……あの、こんな感じでいいのかな?」
 芳男を突然真顔に戻り、胸を掴んでいた手をパッと離
した。
「だ、大丈夫です。その調子でお芝居を続けて下さい」
 少し頬を赤く染め、愛は彼に優しく微笑みかけた。
……』

            *

「――どうして無理やりハートウォーミングな展開に持
って行こうとするかなぁ。鬼畜はどうした? 凌辱はど
こに行ったんだよ!」
 男は三時のおやつを取り上げされた子供のように悲し
い目で僕を睨みつけている。
 一ヶ月前に彼に初めて会ったとき、確か…ジュニア・
アイドルをテーマにした鬼畜系の凌辱小説をこれから書
いていきたいと云う話をしたような気がする。彼はまだ
そのことを覚えていたらしい。
「いや、ほら…たまには心優しい主人公が活躍する凌辱
小説があってもいいかな、と思ってさぁ」
 ――我ながら苦しい言い訳である。
「バカ野郎! 主人公が優しかったら凌辱なんかするわ
けないだろう? もういいから、早くスケベなシーンを
見せろよ」
 僕は仕方なく原稿用紙を更に2、3枚めくり、本格的
に官能描写が始まりそうな箇所から読むように促した。

            *

『……愛はインナーのTシャツと一緒にブラジャーも上
にたくし上げられ、青い果実のような乳房を露わにして
いた。それは大人の男性の片手にスッポリ収まるほどの
大きさでしかないが、弾力を感じさせる小さな膨らみの
頂点では乳首が淡い桜色に色づいており、わずかに柔ら
かな色香さえ感じさせるほどであった。
 ――そんな少女の華奢な乳房を、芳夫のざらついた舌
が優しく砥め擦っていく。
 彼の舌が膨らみの敏感な部分に触れるたびに愛の小さ
な背中がピクッピクッと反応する。
「おいおい、ガキのくせに感じてんじゃねぇ〜よ!」
 それが台本上の芝居の台詞なのか、それとも自らの言
葉なのか、芳男自身もよく分からなくなっていた。
 ただ心の中に、少女を辱める行為に対して背徳的な喜
びが芽生えたのは事実であった。
「くッ……ン…ゥ……」
 愛の軽く開いた唇から子犬のすすり泣くような吐息が
漏れる。
 それも彼女自身の芝居なのだろうか?
 ただ芳夫は、目の前の少女を加虐的に愛撫することの
みを何かに憑かれたように繰り返していた。
「やめて…もう恥ずかしいことをしないで…ください」
 せつなく愁いに満ちた愛の言葉が芳夫の心を余計に煽
っていく。 
「じゃぁ〜もっと恥ずかしくなってもらおうかな――」
 その抗う言葉とは裏腹に固くしこり立ってきた愛の乳
首を、芳夫は舌先でレロレロと細かく刺激する。
 愛はざわつく得体の知れない感覚を追い払うように、
俯いた顔をプルプルと大きく振った。
「さてと……下の方も可愛がってやるとするか」
 芳夫はそう言うと愛のジャージのズボンに手を掛ける
と腰の部分を両手で掴み、何のためらいもなく一気に下
ろした。
「いやッ!」
 日頃スポーツで鍛えられている様子のすらりと引き締
まった両足の付け根には、飾り気のない純白の下着が静
かに息を潜めていた。
 しかし両足を閉じて悪意に満ちた眼から大切な部分を
守ろうとする少女の意志を嘲けるように、芳夫はその太
い指を下着ごしの秘裂にぐぃぐぃと押しつける。
「ほら、どうした! お前のジイさんが早く身代金を用
意してくれるといいけどな〜」
 顔中に卑屈な笑みを浮かべながら芳夫は、愛の耳たぶ
を唾液まみれの舌でペロリと砥め上げた。……』

            *

「ん〜何か責めが幼稚な気がするんだよね。書きたい気
持ちは分かるんだけど……」
 一転して同情するような口ぶりで、男はプカァ――ッ
と煙草を吹かした。
「――ところでさぁ話の中で、こう何度も愛、愛って連
発されると天才卓球少女の愛ちゃんを思い出すんだけど
おたくさぁ〜あの子って本当に天才だと思う?」
 どこからそんな話が出て来るんだよ! こいつの頭の
中にはカニ味噌でも詰まってんじゃないのか?
 
            *

『……芝居の稽古に名を借りて15才の中学生に淫らな
行為をしていることに、芳夫自身も良心の呵責がないと
言えば嘘になるだろう。だが彼としても、もう後戻りが
出来ない所まで来ていた。
「ごめんね…」
 芳夫は小さく呟くと、眼前の白いショーツのゴムに指
を引っかけ――足元まで一気に引き下ろした。
「アアッ!」
 必死に両足を擦り合わせ隠そうとする抵抗も空しく、
生え始めの薄い若毛に覆われた恥丘と細く短いスリット
が明らかになった。
「お、お金が目的なら……もうエッチなことをしないで
ください」
 目に涙を浮かべながらも、愛は与えられた台詞を吐息
混じりに喋る。
「たんまり身代金まで貰ってこんな可愛い子とエッチが
出来るんだ。誘拐犯っていい商売だよね!」
 満面の卑屈な笑みを浮かべ、芳夫は愛のポコッと膨れ
若草の芽吹き始めた恥丘を人差指でツゥーっと撫でた。
「これじゃぁー奥がみえねぇ〜か?――」
 芳夫はそう言い終わらぬうちに、愛の右足首をキュッ
と掴んで肩の高さまで持ち上げた。
 大胆に開かれた股の間でワレメが小さく口を開けたの
を、芳夫は食い入るように見つめている。
「どれどれ…」
 無骨な指先が大陰唇をこじ開けるように押し開き、無
惨なほどに赤く染まった小陰唇と歪んだ三角形帽子の形
をしたクリ○リス包皮が姿を現した。
 間髪入れず芳夫の指はその包皮をクルッと剥き、小さ
な肉豆を露出させて、
「ガキのくせしてこんな所は一丁前なんだな!」
 追い打ちをかけるように、その豆をグニグニと揉む。
「んうッ…」
 甘く掠れた吐息が愛の鼻から洩れた。
 その恥ずかしくせつなげな反応を楽しむように、芳夫
は露わになったクリ○リスを指先で素早く摩擦するよう
に擦り立てる。
「あう…うああ…もう、いやァ…」
 初めて感じるであろう得体の知れない感覚に、その言
葉も意味を成さないものになってきた。
「何だァ、まだこれからだぜ?」
 芳夫は不満そうな顔をしてクリから指を離し、左右の
花びらの内側も擦り上げる。
「やんッ…ヒッ、ひくっ」
 腰は反り返り、その痩せて華奢な体がピクッピクッと
小刻みな痙攣を繰り返す。
 膣口に浅く差し入れた指を回転させ内壁をほじるよう
に、芳夫は恥裂の中を散々弄んだ。
「あ、あああッ…クッ……うう――ン!」
 乱れる艶やかな黒髪、身体がピンと突っ張り、膝がガ
クンと折れた。全てのことから解放されたような喘ぎ声
と共に、愛が一気にオーガズムに達したのが分かった。
 ――その後の芝居の流れは、身代金の受取りに成功し
たことで油断した犯人が警察の巧みな罠に引っかかり、
結局は断崖絶壁の崖から転げ落ちて物語の幕を閉じると
云う、実にあっけないものであった。 

 夢中で演じ続けた芝居のあと、2人は言葉少なに崩れ
落ちるように眠りについた。
 そしてカーテンの隙間から漏れる眩しい朝の光に目覚
めると……愛の姿はもう何処にも無かった。
 ――相変わらずテレビを見ない芳夫には、その後…高
橋愛と云う少女が果たしてオーディションに合格したの
どうかは、結局分からずじまいであった。
 何とか…って云う大物プロデューサーはまだ中学生の
アイドルの卵に、なぜポルノ小説まがいの芝居の台本を
渡したのだろうか? よく考えてみれば分からないこと
だらけである。
 だがそんな事より、今だ失業中である芳夫はなかなか
再就職先が見つからないことに毎日頭を悩ませていた。
 新聞各紙は連日のように、深刻度を増していく失業率
の増加を報じている――。

                     終わり』

            *          
             
「――これで終わりなのかよ。これでおしまいはないだ
ろう……。中途半端過ぎやしないか!」
 男は鳩が豆鉄砲をくらったような顔で口をポカーンと
開けて、原稿用紙と僕の顔を忙しく見比べている。
「てめぇ〜この野郎、こんなタラタラした話を読ませや
がって、結局はフェラもSEXもなしって、ふざけんじ
ゃねぇ〜ぞ!」
 まるで今にも殴りかかって来そうな勢いである。
「ほ、ほら…この物語の設定でSEXまでヤッちゃうの
は、いくら何でも無理があるかなと思って――」
「そ・れ・を読者にうまく納得させて無理に感じないよ
うに最後まで書くのが一人前の小説家だろう!」
 男の言うことは正しく正論であった。
「それにさぁ前回も注意したけど、やっぱりキャラクタ
ー造形が不十分なんだよね。登場人物たちが一体どんな
人間なのか、さっぱり分からない」
 急に人が変わったように的確な指摘をしていく彼を、
今度は僕の方が鳩が豆鉄砲をくらったような顔で見つめ
ていた。
「この前よりは、まぁ〜少しマシになったかなと思うけ
ど……まだ使いモノにはならねぇ〜な」
 男は言いたいことだけ言うと、いそいそと帰り支度を
始めた。
「――ま、待てよ! 大体さぁ、今日こそはあんたの名
前を聞かせてもらうからな。あんた誰なんだ?」
 小脇に黒いバックを挟み、喫茶店のドアに行きかけた
男の丸い背中が一瞬止まった。
「小林…小林誠」
 それだけ言うと自称――小林は、音もなく粉雪が舞う
12月の街へと消えていった。
 あとに残されたのは彼の食い残しのチーズケーキと飲
み残しのコーヒー、
「野郎、ヤリやがった!」
 そして前回同様…タダ食いの伝票であった。
 
                      つづく

 


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恥辱小説の部屋

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